「スパイ教室 side『鳳』 スパイには向かない殺人」感想

この記事は

「スパイ教室 side『鳳』」の感想です。
ネタバレあります。

はじめに

「焔」の短編集もそうだったけれど、作中の現在時間軸で既に故人のキャラの物語って、ただただ辛い。
志半ばにして全滅だもんなぁ。
未来について想いを馳せるシーンなんて特に切ないわ。

本編1巻開始時点で既に故人だった「焔」以上の哀切を感じざるを得なかったスピンオフ。
感想です。

神様、どうか私の罪を被って

ミステリに主眼を置いた連作短編集となっていた本作。
本格ミステリ愛好者としては、ミステリ部分の感想を書くべきなのかもですけれど、感想を書くのに必要な知識も技量も圧倒的に足りないので割愛。
強いて一言だけ感想を書くのであればタイトル通り「スパイには向かないミステリ」だったかな。
本格味は薄いけれども、どのエピソードも「スパイならでは」という工夫が凝らされていたと感じました。

ミステリパートについての言及はこの程度にとどめて、今回はロスヴィータ・ハーディング中尉について感想を。

「鳳」の前に立ち塞がったヴィラン、ロスヴィータ。
ガルガド帝国のスパイ。

今作には数多くの悪辣なスパイが登場します。
本国の為とはいえ、そこまで惨たらしいことを良くもまぁ…と閉口しちゃうほど残忍な性格をしてたり、凄惨な殺し方をしてたりと、人間性終わってるスパイばかり出てくる。
その中でも今回のロスヴィータは、紫蟻の「手駒」を無慈悲に「使う」だけあって、かなりの醜悪さ。

老若男女。
何の罪もない自国の国民を拷問し、体内に爆弾を仕込み、敵と共に爆散させる。
アーディの言う通り「人としてあり得ない」。

ここで面白いと思ったのは、この醜悪な命令を造作もなくやってのけるロスヴィータの精神性への言及。
異常者としか思えない極悪なスパイも、等しく普通の人間なんだよという前提のもとで、「では何故彼らは、異常な行動を取れるのか」を考えてみる。
普通なら罪悪感で精神に異常を来たすか、そもそもそんな惨いことを出来ないか。
けれど、ロスヴィータは、平然と任務をこなしている。

異常者だからなのか?
感覚がマヒしているからなのか?

否、だと思う。
きっとロスヴィータも「ふつうの人間」なんだよ。
最終盤でヴィンドと対峙した際に、彼から「人でなし」呼ばわりされて「人でなしでは無い」と返していたけれど、嘘偽りなく彼女の本音なのでしょう。
コイントスの結果で相手の生死を決める「神頼み」という彼女のやり方が、まさか「人が死ぬのは神が悪いからだ」と神に罪を擦り付ける為の精神的防御だったなんて…。

神頼みをこういう風に都合よく解釈することが出来るんだと仰け反っちゃった。

結局は異常者なんだけれど、罪悪感を感じない理由にすら「身勝手さ」が現れていて、強く印象に残るヴィランでした。

終わりに

アーディの容姿がすごく好みです。
それだけに、それだけに…

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