興味深いデータから迫る本格ミステリ漫画「探偵が早すぎる」の凄いネーム力

この記事は

「探偵が早すぎる」の感想です。
ネタバレあります。

はじめに

ミステリ漫画に目が無い僕。
やはり気にはなっていました。
「マガジンエッジ」は未読なので、恥ずかしながらコミックスの発売時に知ったのです。

手に取ってみたものの、しかし、そっと棚に戻しました。
「ミステリの皮を被ったミステリ以外のジャンル」
「ライトミステリ」
なんとなくこのどちらかなのかなと思ったからです。

あれから1カ月ほどかな?
掌返し早かったですね。
とても面白かったです。
f:id:nuruta:20181002003609g:plain
漫画版「探偵が早すぎる」の紹介記事です。

本格ミステリとして面白かった

やっぱり本格モノが読みたいんですよ。
ライトミステリとかお腹いっぱい。
ミステリを標榜しつつ、サスペンスだった時のガッカリ感にはもう慣れました。

魅力的な謎があって、それを探偵が論理的に解明していく。
絡んだ糸を丁寧に解していく快感は、やっぱり本格ミステリでしか体験できません。

そうですね。
具体的な例を挙げますと、探偵が犯人を疑う理由が「勘」とか「能力」とかだともう最悪です。
「なんとなく怪しいと思ってたら、殺人犯でした」とか。
これって、普通に冤罪案件だからね。
偶々怪しんだ人物が実際に法を犯していたからめでたしめでたしで済んでますが、そうじゃなかったら冤罪。
この後の流れがどんだけ美しい論理に彩られていようと、誰しもが騙されるどんでん返しが待ち受けようと、凡作の域を出ないのです。

これを念頭に置きまして、僕は公式サイトでプロローグと第1話を拝読しました。
プロローグは文字通りですね。
24ページで語られる物語は、この作品の主人公である一華(普通の女子高生)がいかにして命を狙われる立場にあり、どういった経緯で最速の探偵を雇う事になったのか。
その全てがあります。
なので、ここに伏線や謎はありません。(今のとこ)

白眉だったのは第1話。
僅か42ページに「本格ミステリ」が詰まっているというこの驚き。
基本的には、倒叙形式となります。
犯人(計画立案者であったり、実行犯を兼ねていたり色々)が一華を殺す計画を立てます。
頭を捻ってトリックを考案、さぁ、実行って段階で不意に電話が鳴るんです。
誰だこんな時にとばかりに出ると、サディズムめいた声音が囁きます。
「君のトリックは、私が既に無効化した」と。

漫画の強みを活かし、絵の中に伏線をしっかりと仕込ませ、大胆に何度も何度も読者に披露する。
あまりの大胆さに全体の違和感に気づかない。
見抜けない。
針の穴程の小さな小さな綻びを、しかし、探偵は見過ごさない。
僅かな矛盾・違和感・ミスを看破すると、そこから芋づる式に論理を展開させて、真犯人のトリックの全容に達する。
そこまでいけば真犯人に辿り着くのは時間の問題です。

先に書いたように「探偵が犯人を疑う理由」にロジックがあるんですよね。
あっと驚くような綻びを見つけては、華麗に真相まで導いてしまう。

この1話を読んだ翌日。
忘れる事無く1巻を購入しておりました。

圧縮された情報量

あとがきで原作者の先生が漫画版のネームを褒めちぎってます。
「あの分量の文章が、どうやったらこの少ないページ数に収まるんだ?」と。
読者に対して、小説と比較して一緒に驚いて欲しいと述べているのですが、僕は原作を未読。
なので、一緒に驚けないのですが…。

それでも、少しは分かるんですよ。
仰りたい事が。

ここで、非常に面白い記事を紹介させて頂きますね。
本稿の主旨に入ります。
倩 ジャンプ連載作品のコマ数・セリフ数まとめ
2012年の一定時期の「週刊少年ジャンプ」の全掲載作品の1ページ当たりのコマ数と台詞数を調べた記事です。
驚愕です。
世の中には僕以上のひm時間に余裕のある方がいらっしゃるんですね。
尊敬します。マジで。
(最初台詞数って「台詞の文字数」かと思ったのですが「吹き出しの数」みたいですね。それでも凄い労力には変わりありませんが)

真面目な話、かなり面白いデータですよ。
ちょっと「BLEACH」をdisりすぎな感もありますが(正直笑ったw)、傾向的にはギャグ漫画は台詞が多めだということが分かります。
この期間だと「斉木楠雄のΨ難」、「いぬまるだしっ」、「SKET DANCE」の順で1ページ当たりの台詞数が多かったようです。

本作第1話を同じように台詞量を数えた所、約6.2となりました。
「黒子のバスケ」とか「NARUTO」並の台詞数ってことですね。
ちなみに原作者さん絶賛の第3話は6.75。
吹き出し1つ当たりの文字数は、「NARUTO」らよりも多いとは思いますが、それでもミステリ漫画としては驚異的な少なさではないでしょうか。
f:id:nuruta:20181002003650g:plain
プロローグのとあるページ。キャラ絵を一部SD化するなど「読みやすく」構成

ミステリとして情報が少ないとも感じないし、台詞回しに違和感もありません。
漫画としてサクサクと楽しく読めちゃうのです。
それもこれも作画担当の三月薫先生の「ネーム力」が高いからなのでしょう。

情報量の多くを絵に落とし込んでいるのでしょうね。
その上で、原作の必要最低限の台詞だけを抜粋して、違和感なく読めるように再構成されているのかなと。
原作を読み込んで、正しい取捨選択を行い、漫画に組み立てている様子が窺えます。

講談社はミステリ漫画に手馴れています。
ノウハウがあるのかもしれない。
しかし、それを考慮しても、本作もそうですし「虚構推理」もミステリ小説を漫画として再構成する能力の高い作家さんを起用されてますね。
凄いです。

終わりに

犯罪者の事情とか歯牙にもかけずに「己の罪深さと愚かさを同時に噛み締めながら逝け」と告げる探偵がステキすぎる(笑
いいわぁ、このキャラ。

犯人が一生懸命頑張って練り上げたトリックを実行前に嬉々として潰すんですからね。
そりゃ性格ドSじゃなきゃ変だわw
キャラも中々に濃くて、そういう面でも楽しめそうです。

最新情報をチェックしよう!