「かぐや様は告らせたいー天才たちの恋愛頭脳戦ー」が一流の恋愛漫画になった瞬間【15巻感想】

この記事は

「かぐや様は告らせたいー天才たちの恋愛頭脳戦ー」感想です。
ネタバレあります。

はじめに

突飛な設定のラブコメだったはずだ。
それ以上でもそれ以下でもなかった。
時折シリアスなエピソードが挟まれるも、本質はやはりラブコメで、腹抱えて笑える漫画だった。

しかしどうだ、この変わりようは。
いや、本質は何も変わっていない。
ただ、ラブコメの皮を一枚剥くと、そこには濃密な恋愛漫画がいた。
それだけのことにすぎない。
赤坂アカという作家は、「ただのラブコメ」では終わらない恋愛の本質をずばりと描き切ることのできる天才だった。

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©赤坂アカ

15巻の感想です。

かぐやサイド

かぐやの生い立ち。
そして、その結果生じた複数のペルソナ。
多数の人格形成の過程は、これまで丹念に築き上げてきたドラマによって納得できるものとなっていましたが、今回改めて説明がありました。
帝王学というのが一体どれほど過酷で、子供心にいかほどの変容を与えるのかは分かりません。
貧乏な家庭で、ごくごく凡庸に育った凡愚たる僕には、想像すらできないのです。
それでも、かぐやの心に寄り添えて読めるのは、ひとえに赤坂先生の説明の巧みさによるのだと思います。

かぐやのように「複数の異なる自分(ペルソナ)」を持つのは、誰しもそうであるという説明がとっても巧い。
家族の前の自分、友達の前の自分、同僚の前の自分、好きな人の前での自分。
人はそれぞれ相手に合わせて「演じ分けている」…というのを本作で最も多くの仮面を持っている眞妃で例えてくるところが凄いよね。
分かりやすさと説得力が半端ないです。

御行用のペルソナを好きになってもらっただけでは無くて、全部を好きになってもらいたい。
もっと正確に言うのならば、「自分が嫌いなペルソナ」をも好きになってもらいたいというのは、自然な心理です。
それはかぐやが恋愛の本質を理解してるからなのだと思う。

人間誰しも複数の仮面を持っている。
付き合い始めて、今まで見えてなかった仮面に幻滅するかもしれない。
結果として、それが原因で別れることになるかもしれない。
恋愛に臆病な彼女は、御行に嫌われる恐れを抱くのは道理です。

これまでのかぐやというキャラクターを見て来た人間からすると、この展開は避けては通れない道のりだと理解できます。
だから展開には納得だし、彼女の気持ちにも共感できるんです。

にしても御行はやっぱり凄いわぁ。
本当に言って欲しいことを計算では無くて、自然と言葉にしちゃうんだもの。
氷かぐやの本質をとっくに見抜いていたうえで、可愛いと思ってたとか。
さらっと言えるところがイケメンですよ。
お前がかぐやに好かれたのは、そういうとこだぞ。

御行サイド

天才に並び立つには、常人の何倍も努力をしなければならない。
これまた過去幾度となく描かれてきた御行のドラマですよね。

彼は白鳥なんですよね。
優雅に泳いでいるように見える反面、水面下では必死に足をばたつかせているんです。

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©川崎のぼる/梶原一騎

(白鳥は水面下で足をばたつかせて泳ぐというのは嘘です。念のため)
努力の跡は決してかぐやには見せない。
それが御行の隠していたペルソナでした。

こうやって改めて御行の本質を読まされると、文化祭のサプライズの壮大さの理由が納得できますね。
あまりにも手が込み過ぎていた風船サプライズ。
事前の怪盗騒ぎも含めて、多大な労力が費やされていました。

何もそこまでせんでもという位気合の入りまくったのも、それだけ自分とかぐやの「格の違い」を埋めようと必死だった証左なのですね。
あそこまでしないと自分はかぐやに並び立てないという彼の弱さであり、あまりにも低すぎる自己肯定感だったのだなと。

クリスマスに御行が自分の弱さをかぐやに見せれたのは、かぐやの行動力の賜物ではあるのですが、「準備の時間を奪った」ことが大きかったのですね。
時間さえ与えたら、彼は文化祭以上の壮大な計画を披露してたに違いありません。
彼の時間が奪われていく理由が、これまた無理のないというか、非常に自然な成り行きで、このあたりの構成も巧みだったなと思いました。

とはいえですよ、時間が無限にあろうと大したことも出来ない人間はごまんといます。
なんなら僕は、懊悩とした時間を無為に消化するだけで、何もできないクズです。
そういう人間に比べれば、行動力があるだけでも御行は凄いのですけれどね。

終わりに

カップルが別れちゃう理由は様々だろうけれど、熱病みたいに浮かされて付き合っちゃうようなカップルに多いのが「相手の知らなかった面に幻滅した」という理由なんじゃないかな。
知らないけど多分。

相手の格好いい面、可愛い面だけにスポットを当てて、結果カップルになりました…という薄っぺらい恋愛ではないんだということが、この15巻で証明されていました。
かぐやも御行もお互いの弱い仮面・嫌いな仮面を見せあって、それでも相手を受け入れて、再びのキッスを交わした。
14巻とこの15巻で、あまりにも濃密な恋愛を堪能しました。

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