ハジメの成長の契機になった1つの自殺の影響 「金田一少年の事件簿」考察

この記事は

「金田一少年の事件簿」の考察記事です。
重大なネタバレを含みますのでご注意下さいませ。

はじめに

「金田一少年の事件簿R」アニメ化決定を勝手に記念した記事3回目です。
一先ずこれで終わりなんですが、正直過去の記事と似通った感じになってます。
うん。
ハジメが性善論者であるとは過去に何度も書いてますし、公式見解でもあります。

例えば「金田一少年、コナン、燈馬 3人の高校生名探偵のスタンスの違いに関する考察」という記事。
この中でも

彼のスタンスは兎に角「罪を憎んで人を憎まず」なんですよね。
それを全力で体現している。
兎に角人間が好きなんでしょう。性善説論者なのかもしれない。

と書きました。

また、犯人を自殺させてしまう点については

「金田一」で自殺が無くなったのは、関連書籍ではハジメの成長と説明されていますね。
と思ったのですが、どれを見てもそんな事書かれていないwwwどこかで読んだはずなのですが…。
ま、まぁいいや。。。

としました。
補間ですが、「金田一少年の全事件簿」に「ハジメの説得力が上がった故に犯人の自殺は無くなった」と書かれているのを漸く発見しました。

此処までを踏まえまして今回のテーマ。
犯人の死について考えていきます。
これを考える事で、ハジメの成長が示せればいいなと。

この記事では、
「悲恋湖伝説殺人事件」
「黒死蝶殺人事件」
のネタバレを書いていきます。
ネタバレを回避したい方は、これ以降を読まないで下さい。

真犯人達の末路

最初に自殺が無くなった作劇上の理由から。
「金田一少年の全事件簿」の天樹先生のコメントを抜粋。

「以前は、人気が取れればなんでもいい、と考えていたところがあったんです。
(中略)
でも、『金田一少年の事件簿』の中盤ぐらいから、そういう展開はよくないぞ、と自分にブレーキをかけるようになったんです」

天樹先生の心境の変化から自殺が無くなった。
これをガイドブックでは「名探偵金田一ハジメの成長」と解釈して、「ハジメの説得力が上がった」としていました。

さて、犯人の死には「自殺」と「殺害」の2つがあります。
高遠による粛清、関係者の復讐等々。
最終的に何者かに殺されてしまう真犯人もいる訳です。
その他細かく見ていくと事故死などもあるんですが、状況的に全て「自殺」に分類します。

すると原作長編37事件40人の真犯人達の末路の内訳は
殺害: 5人
自殺: 8人
逮捕:26人
入院: 1人
という感じです。
イメージ以上に自殺者が少ない結果になってるかな。
このエントリーでは、「殺害」、「自殺」の2つのケースについてみていきます。

自殺のケース

では自殺のケースから考えていきます。

シリーズを紐解いていくと、犯人が自殺した最後のケースが何か分かります。
FILE.16 黒死蝶殺人事件
当事件の真犯人・不死蝶が、最後の自殺者となります。(12歳の罪も無い美少女を殺した不死蝶許すまじ)
この事件を改めて読んでみると「名探偵金田一ハジメの成長」の転機になっているように感じました。
「黒死蝶殺人事件」には、ハジメの信念が色濃く描かれてるんですよね。

当エピソードの特徴はといえば、「悲恋湖伝説殺人事件」との関係性。
豪華客船の沈没事故に巻き込まれ命を落とした妹の復讐の為、関係者を惨殺しまくった遠野。
彼はハジメに真相を暴かれるとボートに乗って爆破。
遠野の生死は不明のまま事件の幕を閉じました。
この遠野に瓜二つの人物を偶然にいつきが見つけたことから、「黒死蝶」は始まります。
こうして遠野に顔も声も似た人物は、記憶を失くした「深山日影」として”再登場”するんです。

作中では結局
遠野=深山
という結論は出なかったのですが、天樹先生はこれを認めております。
同一人物であり、かつての殺人鬼が結婚して幸せになるという結末を迎える訳です。
(ちなみに上記の顛末内訳には、「遠野」は自殺としてカウントしています)

天樹先生自身も「殺人鬼が幸せになって良かったか」と問題提起されてます。
遠野の殺人動機があまりにも身勝手だったので余計に感じる部分ですね。
妹を死に追いやった”かもしれない”人物を一堂に集め、問答無用で次々と殺してしまったので。
結局遠野に殺された4人は無実だったわけですし。

そんな人物が幸せになって良いのか?
ハジメ的には「良い」んです。
深山と揚羽の結婚式にて、いつきがハジメに「このままでいいのか」と問います。
これに対してハジメが言います。

遠野英治は悲恋湖で死んだんだよ!
あそこにいるのはこれから まったく新しい人生を踏み出そうとしている
深山日影と揚羽の2人
そう…これでいいんだよ…これで…

最後の一言がまるで自分に言い聞かせるかのようになってます。
表情もどこか哀愁のようなものを漂わせています。
非常に意味深な台詞と表情。

ただ単純に見れば、ここにハジメの「罪を憎んで人を憎まず」というスタンスが出ているんです。
“罪”を犯した”遠野”は死んだから、”深山”という”人間”は憎まない。
記憶を失くしている点も”無罪”に一役買ってるのでしょうね。
同様の理由で「魔神遺跡殺人事件」の真犯人・凶鳥の命(まがどりのみこと)も逮捕されなかったみたいですし。
(凶鳥の命は余命いくばくも無かったからというのも大きそうです)

でも、いくらハジメが性善説論者だとしても、これは幾らなんでも「超法規的措置」過ぎるのではないかと。
罪を償わせる行為すら放棄したのにはしっかりとした理由があったと見ています。
ハジメに深山を「見逃させた」のが、不死蝶の自殺だと思うんですね。

不死蝶が自らの腹部に刃を立てた時、彼の母である斑目緑が息子の自殺に「協力」してしまいます。
一緒に死のうとするんです。
それを止めようとハジメは緑に叫びます。

どんな罪だって それを悔やむ気持ちがあるなら生きて償うことはできるハズだろ!?
そうとも!
生きてさえいりゃ…必ず…いつか必ず光は射すんだ!
どんなに辛いことだって死ぬ気で耐えていけばいつかは…

必死の訴えに、しかし、緑は一度は肯定しつつも、すぐさま否定します。

「生きる」ことが「死ぬこと」よりはるかに辛いこともあるわ

と。
そうして、2人は死んでいくのですが…。
ハジメは「そんなの間違ってる」と悔やむんですよね。
緑の「死ぬことの方が生き続ける事より辛くない」という想いを否定する。

深山に真実を突き付け、記憶を呼び戻す事は不可能では無いかもしれない。
時間さえかければ可能かもしれないし、それが出来れば改めて逮捕し、罪を償わせる事も可能でしょう。
しかし、遠野は一度は自殺を選んだ人物です。
記憶を戻せば、再び死を選択する可能性は高そうです。

それってハジメが望む事では無いんですよね。

罪は償うべきだ。
しかし、死ぬ事が贖罪だとは認めない。
生きていて欲しいから、単純に自殺を選ぶ事も許さない。

「そう…これでいいんだよ…これで…」というのは、緑達の選んだ結末より「生きる事」の方が良いんだという意味合いなのではないか。
「生きる」には、「深山に遠野であった事を知らせてはならない」。
ハジメとしてもこの決断には悩んだのかもしれないですよね。
そういう意味合いでも「これでいいんだ」と自分に言い聞かせたのかもしれません…。

このように考えてみると、これ以降自殺者が無くなったのは「ハジメの成長」の契機が此処であったという証にもなると僕は思うんです。

絶対に死なせないとより強い気持ちを持って、これ以降真犯人達と対峙していく。
そうした成果が数字として表れていっているのかなって。

だけど、まだまだハジメは無敵のヒーローという訳では無いんです。
やっぱり一介の高校生に過ぎず、犯人の死は全て防ぐことは出来ていません。

殺害のケース

殺人鬼が最後は自らも殺されてしまう。
そういうケースは、いくらハジメでも防ぐのは難しい。

このケースは、しかし、防ぐ道が明確に記されています。
地獄の傀儡子・高遠との決着。
高遠が殺人プランナーとして暗躍して以降は、彼のみが真犯人達の命を奪っているからです。
道化人形、スパロウ(♂)と2名が手に掛かってますし、巌窟王も命を落としかけました。
今後も高遠の美学を穢す操り人形たちは、彼に命を狙われ続けるでしょうね。

ハジメもそれを承知だからこそ、高遠を追っている。
高遠を捕まえる事に躍起になっている。
「真犯人達の命を守る為」というのも、ハジメが高遠を追う理由の1つですね。

そして、深山のように高遠の罪を見逃さないのは、高遠が自殺するような人間では無いと理解しているからかなと。
これは「金田一少年の決死行」で描かれています。
死を選ばない人間だからこそ、どこまでも・いつまでもハジメは高遠を追っていく。

比較対象に深山を出すのは少し違いますけれど、2人の関係はこんな感じになっているのかな。
「ハジメの成長」は、高遠を捕まえる事で一つの大きな形となって実りそうです。

まとめ

ハジメの説得力は、1つの自殺を契機に向上していった。
より「真剣に・切実に」真犯人に死んで欲しくないという気持ちが言葉に乗っていく事になったのかもですね。
「黒死蝶殺人事件」は「シリーズの中のただの1エピソード」ではなく、ハジメの成長という観点に於いて非常に重要なエピソードだったのかもしれません。

後は、高遠を捕まえる事。
これが出来てようやく「死なせない」というハジメの探偵としての信念が達成できそうです。

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