「結婚するって本当ですか」第1巻感想 青年誌だからこそ可能なゼロから始めるラブコメ

この記事は

「結婚するって本当ですか」第1巻の感想です。
ネタバレあります。

青年誌のラブコメ

若木先生の最新作は、「サンデー」を卒業して、「週刊ビッグコミックスピリッツ」へ!!
初の青年誌連載となる今作は、徹底的にフィクション要素を排した作風になってます。
今までと比べて非常に落ち着いた空気感で、ゆっくりとまったりとした心地いい読み心地でした。
まさに青年誌のラブコメって感じです。

もう1つ、少年誌のラブコメでは実現が難しい構造にも取り組まれていました。
それが「ゼロから始めるラブコメ」です。
感想です。

1話からラブコメしないラブコメ

刺激を求める若者の読む少年漫画では、作風も刺激に満ちていることが求められがちです。
それはラブコメ漫画にも当てはまり、多くの場合1話の時点で主要キャラの片思いが始まっているのです。

色々と理由はあるのでしょうけれど、「恋するまでのエピソードをだらだらとやっていられない」というのが前提にある気がします。
リアルで考えれば、恋に落ちるのにさして理由が無かったり、殊更エピソードがあるという訳でもなかったりします。
むしろドラマティックな理由がある方が珍しいんじゃないでしょうか。
なので、リアリティを求めるのであれば、さらっと「恋をした」とする方が自然ではあるのだけれど、往々にしてエンタメ作品ではドラマ性が求められます。
自然さよりも共感できる・納得できる・感動できるものを読者は望むのでしょう。

であれば、相応のページ数が必要になってきて、その長いエピソードを大事な連載初期に持ってくるのは、かなりリスキーな行為となります。
連載継続を勝ち取ることがシビアな週刊誌連載では、尚のこと、この傾向は強いんじゃないでしょうか。
よっぽど毎回刺激のある展開を盛り込んで、主人公が恋をするまで読者を惹きつけておく自信があれば別ですけれど、「恋をしてからが作品としては本番」な傾向の強いラブコメでは、なかなかに難儀な事な気がします。

少なくとも僕ならば、待ってられないかも。
やっぱりラブコメ漫画には、1話からラブコメ展開を望んじゃいますからね。
少年誌のラブコメでは最初から恋をしていて、恋に落ちたエピソードはある程度作品が軌道に乗ってから描かれることが多いのは、僕としては納得できるのです。

では、青年誌はどうか。
別に青年誌は枯れたオッサンが主要読者層であるとは言いませんけれど、比較的落ち着いた層が読んでいる印象が強いです。
読者の年齢層が上がった分、バイオレンスやエロティック面ではより刺激的にはなってますが、ラブコメや恋愛は「大人の落ち着いた恋」が描かれる傾向にあると思います。
少年誌よりかは幾分大人しい作風でも受け入れられやすい土壌があるのかなと。

そこで、本作です。
主人公は大原君と本城寺さん。
旅行代理店に勤める同僚(本城寺さんが2年先輩)2人は、同じ部署にいながらも、碌に挨拶すら交わさない仲。
どちらもコミュニケーションが得意ではなく、恋愛はおろか1人でいる方が楽で楽しいと考えるタイプ。

そんな2人が「結婚を宣言」しちゃうのは、ロシアへ転勤させられたくないから。
ロシアなんぞに飛ばされたら、楽しい独身ライフを満喫できなくなってしまう!!

あまりにもあまりな動機でドラマは始まります。
第1話は、こんな感じでラブコメ要素ゼロ(笑
2話以降も、お互い恋愛感情がある訳もなく、ただただ必死に「自分たち結婚します」という嘘を同僚たちに信じ込ませようとする様をゆっくりとコミカルに描いていくのみ。
コメディではあるけれど、ラブでは無いんですよね。

ただ、ゆっくりではあるんだけれど、少しずつ心の距離感が縮まっていってるので、着実にラブコメ要素は増していくのだと予想されます。

少年誌ではなかなかにチャレンジングな構造をしてるのです。
これぞ青年誌ならではのラブコメなのかなと感じた次第。

次第に惹かれあうであろう2人をゆっくり・のほほんと眺めていくラブコメ。
ゼロから始めるラブコメディの先行きが楽しみです。

終わりに

この落ち着いた雰囲気とかコマ割りの間は、どことなくあだち充先生の作風を思わせますね。
大変失礼ながら若木先生の描く漫画は「昭和のかほり」がするので、ローテンションな大人な作風もピッタリと嵌るんですよね。
これまでのラブコメ作品とは一線を引いた、良い意味での新境地となりそうで、大変に楽しみを覚える1巻でした。

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