漫画のオールカラー化は「漫画の持つ魅力」を奪っているのではないか

この記事は

漫画のオールカラーについての私見です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

はじめに

漫画もアニメもデジタルでの制作が当たり前になってきたからなのか、近頃やたらとオールカラー化が目立ってきています。
「北斗の拳」とか「DRAGON BALL」とかは本で出版されてますし、電子書籍版をオールカラーにしてる漫画もあります。
この漫画のオールカラーについての僕個人の考えを書いていきます。

カラー化の作業

カラー化するにあたっての作業はどうなっているのか。
先ずはこれについて押さえておきます。

「新仮面ライダーSPIRITS」。
村枝賢一先生が仮面ライダーZXを中心とした10人ライダーの戦いを熱い筆致で紡いでいるこの漫画も、3巻から特装版を発売しています。
コミックスに同梱されているのは第1部をオールカラーにした「カラーライズドバージョン」です。
要するに「仮面ライダーSPIRITS」1〜3巻のエピソードをオールカラーにして、各エピソード毎に1冊の小冊子に纏めている訳です。

この中のインタビューから、カラー化についての言及がありました。
漫画の原稿にはスクリーントーンというものが貼ってあります。
カラーにする際は、このトーンが邪魔になる為、パソコンで消す作業から入るようです。
方法はというと、とっても大変。
原稿をスキャンして、取り込んだ画像データを拡大。
消しゴムでちまちまと時間を掛けてトーンの部分だけを消していくそうです。

そうして不要なトーンを外し終えてから、色を塗っていく。
色塗りは、多分殆どの場合そのままパソコンでやられているんではないかと思います。
この色塗りの段階で、作者の監修が入る場合もあるようです。
基本的にカラー化の作業は作者の手を離れている筈ですから、色合いのチェックとか色彩デザインとかされているのかもですね。

ちなみに「ライスピ」の場合は主に弟さんが担当。(トーン外しなどは印刷会社の方がされたみたいです)
村枝先生から最低限の指示は出していたとインタビューでは触れられておりました。

正直気が遠くなるほど大変な作業であることはインタビューからも伝わってきました。

カラーを使った演出意図を阻害している

オールカラーってどうなんでしょうね。
読者サービスの一環としては良いと思います。
ただ、漫画の良さは失ってるよな〜って。

村枝先生の言葉をお借ります。
先生もオールカラーには当初否定的な立場だったようです。
それを踏まえ引用します。

全部塗ってあると全部見せ場に見えちゃうので「むしろ演出意図が見えづらくなるんじゃないかな」と…ロジック的には否だった

「ライスピ」を知ってる人は分かると思うんですが、この漫画は第1部は特に見せ場をカラーで演出していました。
クライマックスカラーと公式で言われてましたが、「ここはカラーで見たい」と思う様な場面にビシッとカラーのかっちょいいページが入る訳ですよ。

第1部第1話の本郷登場シーンとかね。
それまでモノクロだった画面に色が射しこんで、色の着いた状態で変身するんです。
見せ場をカラーにする事で、ここが盛り上がり所だとひと目でわかる。
そういう演出意図が見えていました。
だからこその発言で、全ページカラーにしちゃうとこの時の感動が無くなっちゃうんですよね。

近年、このカラーの演出意図を別の意味で無くし欠けちゃってるのが巻頭カラーの扱いに関してですね。
これは僕が「ジャンプ」しか知らない様なものなので、「ジャンプ」漫画に限った話なのですけれど。

昔は巻頭カラーといえば、最初の4ページ程をフルカラー(4色又は3色)で、残りページが2色カラーでした。
第1話の時みたいにページ数が多い場合は途中からモノクロページに切り替わりましたが、それ以外は1話丸々カラーだった訳です。
巻頭カラーというのは「バクマン。」でも描かれていましたけれど、「物語の見せ場」となる回が来る事が多いです。
そういう風に構成しているようですし、とすると、カラーで見せ場が描かれるというのは、村枝先生が仰っている事と同意となります。
コミックスで読んでいても、すぐに気付けるんです。

けれど、もう10年位?
もっと前からかな。
巻頭カラーで色が付いてるのは冒頭2〜3ページ位だけになっちゃいましたね。
何故なのかは知りません。
予算の関係でしょうかね。
巻頭カラーと言っても、表紙を除けばカラーなのは1ページあるかどうか。
カラーは表紙だけなんてことも少なくない。
ほんのちょっぴりカラーの演出意図が削がれてる気がしないでもないんです。

そうそう。
余談ですけれど、たま〜に1話丸ごとオールカラーってありますよね。
「SLAM DUNK」、「アイシールド21」、「BLEACH」、「黒子のバスケ」とかかな。
覚えてる範囲では。
この中で「スラダン」はコミックス収録時にモノクロで収録されていて、井上先生が泣いてたのを記憶してます。
「この回、連載時ではオールカラーだったんだよ」とか言いつつ。
「BLEACH」とかはコミックスでもちゃんとカラーのまま収録されてるようですが、そうじゃないと漫画家にとっては悲しい事なんでしょうね。
気合い入れて塗ったカラーがコミックスだとモノクロになっちゃうと。
そう考えると、カラーって言うのはちょっと厄介なのかもしれませんね。

閑話休題。
えと、兎も角ですね、オールカラーにしちゃうと「カラーの演出意図が見え辛くなる」という村枝先生の意見には賛同しています。

もう1つ、否定の立場を取る理由としては、個人的な漫画の楽しみ方とでもいうのかな。
オールカラーにすることで楽しみ方が阻害されちゃうから。
それについても少し。

モノクロ漫画に色を見てる

村枝先生へのインタビューで興味深い個所がありました。

インタビュアー:昔、ある漫画家さんと話している中で訊いてみたことなんですけど、トーンワークを覚え始めた頃に世の中を見て「あの看板は何番のトーンだ」とか「あの服をトーンで表現すると砂目で削りを入れて」とかを考えちゃうもんですか?って訊いたら「はい考えます」って。
村枝先生:考えます、うん。

これ、つまりは、色をトーンでどうやって表現するか考えられてるって事ですよね。
不思議な事に漫画を読んでるだけで、僕等もこの感覚が身に付いてたりします。
流石にトーンについて詳しくないので、世の中を見てどのトーンで再現できるかとかは考えませんけれど。
けれど、漫画を読んでいると「使われているトーンが何色を表現しているのか」が感覚的に分かったりします。

「ああ、このトーンは赤なんだろうな」とか「ここは青かな。なんとなく」とか。

事前にカラーイラストを見てから、モノクロの漫画を読むことになるからなんでしょうけれど、自然と”理解”しちゃうんですよね。
トーンが使われて無くても、例えば、あるキャラの髪の毛が白で表現されていたら、そのキャラの髪色をどう考えるか。
見たまま白の時もあれば、金髪や黄色を想像する。
これまでの経験則から推測出来る事で、こういうのは殆どの読者間で共通認識が生まれてる筈です。

モノクロの世界に色を見ている訳で、これはモノクロ漫画ならではの楽しみ方なのかなって。
全てカラーにしちゃうと、こういう楽しみ方も出来なくなっちゃうので、諸手を挙げて賛成できにくいんです。

アニメで見る色での演出

アニメでも色での演出ってありますね。
演出に疎い僕でも「これは演出だ!!」と分かるのが、1つあります。
そう。
漫画と全く逆の事をしている訳です。

当たり前ですけれど、通常フルカラーであるアニメ。
カラーが常なのだから、色を足す事での演出って難しい。(難しいというか僕が分からないだけ)
なので、逆に色を引いている。

キャラがショックを受けた場面とか。
ジョーが真っ白に燃えつきた場面とか。

敢えてモノクロのシーンを挟む事で、メリハリをつけている。
たまにこういうシーンがあると、妙に印象に残ったりしますからね。

こうしてみると、色の演出というのは間違いなくあると言えますし、漫画の世界にだって存在している。
オールカラーというのは、そんな演出の1つを奪ってしまう行為なのかなと。

終わりに

色々否定的な事を書きましたが、それでも「サービスの一環」ならば大歓迎。
歓迎してなければ、わざわざ通常盤よりも高い特装版を買い続けていません(笑

最後に村枝先生の言葉で締めます。(最後の1行はこことは別の質問に対するものですが、締めの言葉として付け加えさせて頂きます。)

インタビュアー:実際に色校を見て思ったのは「ひとコマを眺めている時間が長くなるな」と。
村枝先生:そうそう(笑)。カタルシスとは違う感動がありますね。だからグッズなんですよね。鑑賞率が上がったというか。
「漫画としていいね」というよりは「グッズとしてアリだね」と。

最新情報をチェックしよう!