「さよならの朝に約束の花をかざろう」 感想

この記事は

「さよならの朝に約束の花をかざろう」の感想になります。
ネタバレあります。

はじめに

岡田麿里さん初の監督作品。
脚本家として、僕の好きな作家さん。
しかもキャラデザが石井百合子さんです。
「凪のあすから」とか「クロムクロ」とか。
女の子のほっぺたから顎にかける丸みのあるラインが大好物です。
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「SHIROBAKO」のこのカットとか超好き。
可愛い。

これは見に行かねばということで、行ってきました。
ネタバレありで感想を書かせてもらいます。

スタッフクレジット見たら、演出に長井龍雪さん。作監に田中将賀さんがいました。
「とらドラ!」「あの花」ラインですかね。
良かです。

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感想

もし自分が不老不死になったら…。
妄想したことありませんか?
恥ずかしながら僕はあります。

死ぬのは怖いです。
誰だって嫌です。
病になるのは苦しいです。
やはり嫌なものです。
それら苦痛から逃れられるとしたら…。
不老不死。
永遠の若さと永久の生。

一度はそんな妄執に駆られることがあります。

だけれど、そんな妄想はすぐに霧散します。
必ず頭を過るんです。

数えきれない別れの痛切に。

大事な人との別れ。
胸が張り裂けそうなほど辛く苦しく耐え難いものです。

死なないということは、一度でも嫌になる別れを、何度も何度も繰り返さなければならない。
永久の生に意味などなく、ただただ苦しいばかりなのではないか。
やはり「自身の死」というのは大事なものであると考えます。
生きながらえて孤独を味わうくらいならば、さっさと死んでいきたい。
孤独・別れというのは、僕にとってそれほどの痛苦なのです。

人よりも長い寿命を誇り、変わらない若さを保つイオルフという種。
この物語はイオルフの少女マキアの愛と別れを悲しくも美しい旋律で彩った作品でした。

イオルフの長老であるラシーヌがマキアに告げます。
「本当の孤独というのは、愛を知ってからだ。だから愛してはならない」と。
劇中通りのセリフではありませんが、こんな感じのことを言います。

「一人が当たり前の世界」と「他者との幸福で愛の溢れる日々を知った後の孤独」ではどちらがキツイか。
断然後者ですね。
愛に塗れ、死という別離を経験した後の孤独は、「たった1人で生きてきた孤独」とはまた違った一層の孤独感があるでしょう。

人よりも長寿のイオルフは、そんな別れを人より多く経験する。
だから、孤独に蝕まれないよう、最初から愛に触れてはならない。
後ろ向きな考えかもしれませんが、自身を孤独から守る最適な手段とも言えます。

「一人が当たり前の世界」だったマキアには、この時の長老の言葉は届いていたのでしょうか。

彼女の心境は置き去りにして、過酷にも世界は動き出し、マキアは小さな生命と出会います。
とある母が、文字通り死ぬ気で守り抜いた小さな命。
その命にエリアルと名付けたマキアは、エリアルを愛していきます。
自分の本当の子供のように。

愛を注ぐことが分からず、戸惑いながらも、ひたむきにマキアはエリアルを育てていきます。
はじめは「真似事」だったかもしれません。
お母さんの真似。
でも、それが真の愛情であったことは、成長したエリアルが表していたと思うのです。

まっすぐに人を愛し、慈しみ、生を全うする青年に育った姿からは、マキアの愛情の深さが見て取れました。
マキアもそんな青年に育ったエリアルを見て。
エリアルの子供(娘)を取り上げて、それを確信したのではないかな。

自分は間違っていなかった。
自分が行った「愛を注ぐ」という行為は無駄ではなかった。
新しい命が芽生えたのだから。

エリアルの娘の出産に立ち会ったことで、マキアは長老の言葉の意図を知り、それを否定したのだと思います。
別れは約束を反故にするほど辛い。
泣いて泣いて泣きじゃくるほど辛い。
けれど、注いだ愛情は「新しい命」という形で受け継がれている。
思い出は、愛は、いつまでも胸の中に残っている。
記憶が刻まれていく。
それがある限り、孤独ではない。

別れというものをとても前向きに捉え、出会いを・愛を育むことを肯定する。
マキアの生き方は、僕の悲観的な考え方をも否定するものでした。

世界観に浸れる

独特のファンタジー世界。
冒頭は、なれない単語に戸惑うこともあるかもしれません。

レナト(ドラゴンみたいなの)の赤目病でしたっけ?
数の少ないレナトにとっての「死の病」なのでしょう。
冒頭、そんな病気に突如かかったレナトに巻き込まれて、マキアは世界に放り出されてしまいます。

「なぜそうなったのか」最後まで見ると理解できますが、その時は何が起こったのか理解できませんでした。
「突然何故か暴れだした竜みたいなのにマキナが引っ張られた」…「なぜ?」みたいな。

そういった独特の設定は、とりあえず「なぜ?」のままでも良いと思います。
物語が進むと分かりますし、なにより物語の本質ではないから。
本質は「孤独」を生きる少女が愛を知り、愛を慈しむ物語なのだから。(僕解釈)

それに、美術背景の目を見張るほどの美しさと優しいBGM、そして、石見舞菜香さんの優しい声音が世界観に引き込んでくれます。
些細な疑問は頭の片隅に追いやられ、あっというまに世界観に飲まれるんです。

独特の世界観を見事に現出し、観客をその世界へと誘う。
演出とか音響とか作画がハイレベルで調和してるからなのかなと思いますね。

終わりに

石見舞菜香さんの声はやっぱりいいですね。
「ゲーマーズ!」の星ノ守千秋役で彼女のことを知って、綺麗な声だなと感じていたのですが、今作に・マキナというキャラクターに驚くほどフィットしています。

彼女の声によって紡がれるマキナという少女の物語に、是非浸かっていただきたいです。

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