「泥酔彼女『弟クンだいしゅきー』『帰れ』」感想

この記事は

「泥酔彼女」第1巻の感想です。
ネタバレあります。

ラノベ七不思議

世の中にはラノベ七不思議というものがあります。
そのうちの1つが「1巻表記が無い」。
内容的に明らかに続刊の予定があるのに、どこにも「1巻目」であるという表記が無いのです。

新人の受賞作など売上如何によって、続きを出すかどうか決まるというパターンはあるらしく、その場合1巻とプリントできないのは頷けます。
けれど、中身的にも「つづく」という感じで終わっており、しかも、あとがきで作者自ら続刊を明言してる場合でも表記されてないことがあります。

この作品がまさにそれ。
コミックスに慣れ親しんだ身としては、1巻と表記されている方が並べた時の見栄え的にもしっくりくるので、是非必須として欲しいところですが…。
それが出来ないのは、売り上げが予想以上に壊滅的だった場合、急遽打ち切られることもあるということ…なのかな…。
恐ろしい世界だぜ。

他の七不思議は皆さん適当にでっちあげてください。
作品の感想に入ります。

感想

メインヒロインの七瀬と主人公・穂澄の関係性を描くことのみに絞って絞り上げたかのような構成だった。
その為、長所としては七瀬の魅力がとことん伝わってきたし、短所としては幼馴染の羊子が折角出したのにあまりにも蚊帳の外。
ヒロインレースで最早巻き返し不可能ではと言うほど圧倒的な大差を見せつけられたのは、ラブコメ的には痛い。
だからこそ最低でも3巻までは続いてもらわなくてはなりませんね。
ひつじちゃん(この呼び方可愛くて好き)の盛り返しには、大いに期待しております。

さておき、七瀬。
うん。良いですね。目新しさが良い。
酒飲みキャラは定番だけれど、メインヒロインとして配置してるのは珍しい。
そもそもが少年漫画もラノベも主人公と同世代の未成年がメインヒロインを張ることが多数なので、お酒を飲める女性は教師とかに割り当てられ、特徴を強調するためか酒豪に設定されることが多いです。
そうなるとヒロインと言うよりギャグキャラ的な立ち位置にされることが多くて、場合によっては鬱陶しがられてしまいがち。
この作品は、そういった「年上酒豪女性」設定を一歩先に進めてるところに、オリジナリティを感じました。

七瀬は、本当にラノベのヒロインなのかと疑いたくなるほど、全編に亘ってのんだくれていて、酒飲み嫌いを主張する穂澄で無くとも面倒くささを覚える程。
いくらちょいちょい可愛らしい面を挟んでも、ラブコメのメインヒロインとするには、酒豪設定が足を引っ張りまくっているように映ります。
小さなプラスの積み重ねを吐き気と一緒にマイナスまで戻しちゃってるんですよね。

勿論、七瀬が来なくなった時の穂澄の寂しさも理解できるんです。
居たら居たで面倒くさいし、かしましいのだけれど、底抜けに明るいし、なにより人を傷つける言動をしない。
こういう人って「煩い人」ではなくて「賑やかな人」なんですよね。
ポジティブな感情を覚えるからこそ、居なくなると寂しいと感じちゃう。

とはいえ、ラブコメのメインヒロインは、それだけで務まらない。
マイナス面をプラス方向に活かしたい。
そうすることでマイナス面すら「仕方ないか」と読者に思わせる必要がある。

そこで、アルコールによるリラックス効果を持ち出してきたのは、素直に納得。
これ、医学的にも理に適ってること。適量のアルコールは、事実リラックス効果を生みますから。
アルコールによって、素晴らしい演技が出来るという設定は、突飛なわけではないのです。
とはいえ、いきなり出すと唐突感も否めないので、そこは丁寧に伏線が張られていましたね。
「酔った状態だと女優(羊子)すら騙せる演技ができる」というのを示し、人気女優(水守)に「お芝居ができてる」と言わせることで、「十分な演技力は持ってるけれど、素面だと力んでしまう悪癖がある」事が分かります。
リラックスできれば問題ないとしっかりと提示してあるので、すんなりと受け入れることが出来ました。

酒を飲んでいる意図を提示することで、酒癖が悪いというマイナス面が一転個性に転嫁されたのかなと。

色々と書きましたが、僕は七瀬はメインヒロインとして十分魅力的に感じました。

姉・雫との関係性の変化が気がかり

先にも書いたように、今作は続きが予定されています。
予定されているというか、出てくれないと嫌なのですが…。
2巻以降では、満を持して羊子にスポットが当たるのでしょうし、勿論ラストで爆弾を投下してきた水守も本格的にお話に絡んでくるのでしょう。
いよいよもって多重ヒロイン登場のラブコメとしてフルスロットルでぶっ飛ばしてくれそうなのですが、僕が気がかりなのは穂澄と雫の姉弟の関係性の変化にあります。
もっといえば、悪化するのではないかと危惧しています。

今回のお話で、裏で糸を引いていたのが雫でした。
敢えて黒幕的な書き方をしますが、彼女が辣腕マネージャーとして穂澄を掌の上で動かして、女優・七瀬のサポートをしていました。
全ては担当女優の為。

終盤で濁していたように、表に出るとやばいようなことでも、あらゆる手を尽くしてでもやる人だということが分かります。

そうなると怪しいのが、穂澄のトラウマとなった「水守の五股事件」。
穂澄の現在にまで影響を及ぼしているこの事件ですが、本当に水守は自分の意志で5人もの男性と同時にお付き合いをしていたのでしょうか?
女優として成功するために雫が命じていた可能性は無いのでしょうか?

理由はいくらでも考えられます。
男性に慣れるため。交際経験を積むため。
前者は、例えば男性が苦手で、それを克服するためだとか。
後者は、恋愛ドラマでリアルな演技をするためとか。
素人が適当に思い付きを書くだけでも、いくつか候補を挙げられるくらいです。
やんごとなき背景があって、五股を強いられていたという設定があってもおかしくありません。

もしも、水守をヒロインにするのであれば、穂澄の中で五股事件の解決・解消は必須事項となります。
彼が納得できる「五股していた動機」を用意する必要があって、最も自然なのが「雫黒幕説」だと思うのです。

「水守にとって、穂澄だけは自分の意志で付き合っていて、他の4人は仕方なしだった」
「(穂澄と付き合う事以外の)全ては女優になるため、雫の指示だった」

しこりを残さずに、綺麗に2人の関係性がリセットされるんじゃないでしょうか。

ただ、そうなると当然のように姉弟間に溝を生んでしまう可能性が大なのですが…。

水守というキャラクターをどのように持っていきたいのかで、五股事件の真相は変わってきそうです。
このまま敵役ならば真相も糞も無いでしょうが、ヒロインとして扱うのであれば「彼女も被害者である」という真相があるはずで。

羊子の巻き返しと共に、続刊で気になるポイントです。

終わりに

続きをプリーズ。

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