「仮面ライダーSPIRITS」 "魂"に込められた意図を考える

この記事は

「仮面ライダーSPIRITS」の考察記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

2つの不満

「仮面ライダーSPIRITS」。
最高の漫画です。
本誌では遂に東京編に突入。
1号率いる10人ライダーとショッカー&デルザー軍団の全面戦争が描かれるんじゃないかなと期待に胸がはち切れんばかりになっています。

さて、第2部終盤で歴代の悪の組織が復活。
第3部は、そんな悪の組織を相手に10人ライダーが列島各地で激戦を展開する様を描いています。

北海道ではスカイライダーがネオショッカーを。
京都で滝と共に2号がゲルショッカーを迎え撃ち。
V3・ライダーマンが、四国を舞台にデストロンと死闘を演じ。
Xライダーが山口から島根へと転戦し、GODに立ち向かった。
ブラックサタンが蹂躙する富士にて、藤兵衛と合流したストロンガーが制圧に向かい。
九州は熊本を縦横無尽に駆け回るアマゾンがゲドン、ガランダー帝国との激戦を展開し。
そして、東北に陣取ったドグマ、ジンドグマとスーパー1が激戦を繰り広げた。

流石にライダー達だけで、かつての組織の全怪人・幹部を相手にするのは骨が折れる。
そこで、滝和也を隊長とした傭兵集団「SPIRITS」が結成。
「ライダーの後方支援」を目的とし、全ライダーに1部隊ずつ合流しています。

この展開に、往年のファンからは文句という訳では無いでしょうけれど、不満が噴出しているようです。
主な不満は以下2つ。

1つ。蘇った怪人・幹部に「魂」が無い=自我が無いという設定が気に入らないというもの。
第1部やそれ以前の暗躍で集めた改造素体と暗闇大使の力によって蘇った怪人たちは、魂を宿しておりません。
例外として、銀の髑髏を憑代として復活した地獄大使だけは、魂を持ったまま復活しました。
第2部第24話での暗闇大使のセリフを抜粋します。

「こやつらに魂はない 魂など所詮か弱き人間の欠片よ……」

暗闇大使は、人間の魂を持つ事で弱い存在になるという考えを持っているのでしょう。
魂の無い事は更なる強さに繋がるという考えであるから「更なる服従…更なる獣性をもって蘇るのだ…!!」とも言っています。

で、この設定に異を唱えているファンがいるんです。
原作のTVシリーズでは、ライダーと特別な因縁があったり、漫画内で語って欲しいと思う様な関係があったりする怪人がいたりします。
特に幹部連中はそうですね。
この漫画は、TVシリーズをリアルタイムで見ていた方達も多く読んでいる作品なので、余計にこの「魂の無い設定」は残念に感じるのだと思います。
漫画内で因縁のある怪人・幹部との戦いを見たかったという意見は、ひどく共感致します。

2つ。傭兵軍団「SPIRITS」が邪魔というもの。
作品の主人公であるZXに付いた第10分隊が、主な批判の矛先になっていました。
兎も角ガラが悪い、曲者揃いの10分隊。
それでいて、再生怪人相手に渡り合い、時には倒しちゃったりして。
ネットでは、物凄く反感を買ってました。

これも分からないでも無かったりします。
仮面ライダーを好きな人って、やっぱりライダーを特別な存在としているんですよね。
彼らにしか、凶悪で強い怪人を倒す事が出来ないと思っている。
実際にはそんな事も無くて、例えば「スーパー1」の玄海老師は、素手で怪人をいとも容易く屠っています(笑)
改造されていない人間でも、怪人を倒す事の出来るという証明であり、武器を使っている「SPIRITS」が怪人を倒していても可笑しくはないんですが…。
それでも納得いかないという気持ちはやはり拭いきれなかったり。

という訳で、このように2つの大きな不満があるのですが…。
この作品が「魂」に込めている意味合いを考えることで、納得出来る事なんじゃないかなと考えます。

記憶が宿る場所

再生怪人軍団の中でも、地獄大使以上に特別な存在がいます。
デルザー軍団ですね。

wikipediaに纏まっていましたので、該当部分を抜粋させて頂くと、デルザー軍団とは

JUDOが太古の昔に生み出した古の魔人達の子孫を改造した大首領直属の精鋭軍団であり、その身に宿すは狂気と憎悪とされ、元より人間の魂を持たない

と設定されています。(これは第2部第39話にてジェネラル・シャドウが語っています)

また、蘇った後も生前の記憶を保持しており、かつて7人ライダーと戦った記憶も有しております。
1号はそんなデルザーに苦戦。
1人1人が大幹部相当の力を持つと言われるデルザーの魔人達を1人で相手にしているから…というよりも、寧ろデルザーに「ライダーと戦った記憶があるから」苦戦している…。
第2部第38話での2号との会話よりそんな事が窺えます。

人間の魂は無くとも、記憶を持っており、また自我を有している。
これは非常に大事な事であります。

さて。
では、記憶とは何処に蓄積されるものなのか。
まあ、脳に決まっていますけれども…。
ただ、この作品では違うんではないかなと思っています。

脳以外に生前の記憶が蓄積されているという表現をしている作品というと、僕は真っ先に「Angel Heart」を思い起こします。
死んでしまった香の記憶が心臓に残り、それを移植された香瑩に受け継がれる。
所謂「記憶転移」というもので、科学的な証明がなされている訳では無いものの、「エリアの騎士」や「さよなら絶望先生」等々他の漫画でも見られる現象(設定)です。

同じようにというと語弊があるかもですが、この作品の場合は「魂に記憶が宿っている」のだと考えます。
「魂 記憶」でググるとちょっと怪しげなサイトや記事が引っかかるのですが…別に宗教的な意味合いは無くて。

これは、改造人間の改造プロセスを考えると、こういう結論に辿り着くんです。
「仮面ライダー」の改造人間には、改造手術に纏わるとある一つの共通項があると思っています。
「脳改造」です。

悪の組織に改造されたライダー達は皆この「脳改造」を受ける直前に脱出し、故に「人類の味方」として悪の組織と戦い続けることが出来ました。
逆に怪人たちは、皆この「脳改造」を受けてしまった為に、悪の尖兵としてライダー達の前に立ち塞がり、そして散っていったのでしょう。

この「脳改造」がどの程度のレベルの改造手術なのかは不明です。
調べれば分かる事なのかもですが、僕は調べても居ないので知らないのです…。
ですが「人間の時の脳まで含めて怪人」であることは窺えます。

つまりは、復活した怪人たちも皆、人間時の脳を保有したまま蘇ったと考えられるのです。
記憶が脳にあるのならば、脳を持つ再生怪人には記憶があってしかるべきであります。
また、デルザーに記憶があって自我もある事から、彼らもまた自我を持っていても何らおかしくない。
しかし、彼らには自我が無い。記憶も持たない。脳があるのに。

彼らとは別に地獄大使は、やはり脳まで再生されていると予想されます。
そんな地獄大使に自我や記憶があるのは、魂があるからに等しく。

上で当たり前のように結び付けて来た「魂」と「自我」の関係ですが、ここはイコールで結べると思うのです。
また、以上の事から「記憶」も「魂」と結びつけることが出来る。
デルザーに関しても「人間の魂」が無いだけで、「魔人の魂」みたいなものはあるんじゃないかな。

長々と書いてきましたが、この漫画では、魂に記憶が宿っていると考えられるのです。
(モグラ獣人など、魂が無くとも生前の記憶を有しているような描写が見られますが、これはそのまま「脳にも記憶がある」からという解釈で問題無いのでしょうね)

遥か上に書いた2つの不満。
これは「魂」に込められた意味合いを考えることで解決するとしました。

「魂」とは「強さ」そのものであると、この漫画では謳っているんではないでしょうか。
暗闇大使が豪語する「魂が無いから強い」というのを否定している訳です。

デルザー軍団がそれを表現している。
自我を持つ=記憶を持つ=強い
という方程式。
そりゃかつての戦いの記憶を有していれば、強いですよね。
しかも一度拳を交えた相手。敵のクセや特徴など知っている方が、知らない時よりも有利に運べる。

そんなデルザーはしかし、人間の魂を持っていないけれども、人間以外の魂を持っているかもしれない。
自我を持たない=記憶を持たない=魂が無い再生怪人

自我を持つ=記憶を持つ=魂がある地獄大使
との三者を比較する事で、類推できる。

自我を持つ=記憶を持つ=魂がある=強い という図式が成り立つ。
魂を持たないから、再生怪人は魂を持つ(ご丁寧に「SPIRITS」を名乗る)改造も受けていない人間に倒される。

こういう事を表現する為に、敢えて「怪人・幹部に魂を持たせなかった」のでしょう。
勿論作劇上の観点から「魂を持たせると、怪人1体1体の個性を描かないといけなくなる」からという理由もあるんだとは思います。

ライダーが怪人を倒すのは、言ってみれば当たり前のこと。
それを描くだけで「魂があるから強い」とは表現しきれない。
そこで、普通の人間である「SPIRITS」が必要となったのではないでしょうかね。

結局は、この作品は魂が人を強くするという事を描きたいんだと思う。
昭和ライダーさながらの根性論であり、非常に燃える設定ですしね。
魂の籠った攻撃が出来るから、ただの人間でも魂の無い空虚な存在である怪人を屠れるのです。

不満も分かります。
けれども、「SPIRITS」が出てくる必然性も、再生怪人・幹部に魂が無い理由もちゃんとあるんだと思う。

恐らくJUDOもまた魂を有しているのでしょう。
ツクヨミに幽閉された「体」というのは、魂そのものなんじゃないかなと思ってます。
原作(TVSP)でも「悪霊のエネルギーの集合体」と評されていたりして、魂のような無形物と見做せますし。

何らかの形で、そんな魂の存在であったJUDOも、体を復元させて完全復活する筈で。
魂の入ったJUDOと熱き魂を宿した10人のライダー達の最終決戦。
その時まで刻一刻と近づいております。

連載開始から今年で12年。
(wikipediaでは2001年連載開始となってますが、実際は2000年11月25日発売の2001年1月号からですw)
いよいよ大河連載の終わりが近づいてきちゃいました。
終わって欲しくないという気持ちが強いのですが…。
燃えたぎるようなクライマックスに向けて、いっきに突っ走って貰いたいですね。

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