「スパイ教室 短編集03 ハネムーン・レイカー」感想

この記事は

「スパイ教室 短編集03」の感想です。
ネタバレあります。

まさかの「鳳」主役の短編集

あとがきにあるような竹町先生の考えとは異なるのですけれど、このお話を本編に組み込まず、こうやって短編集と言う形で「全ての結末を知ってから」読むと、よりビターな気分に落ちますね。

「鳳」の死というのは、今作において非常に重要な位置を占めていると思っております。
作品の世界観を象徴的に評した一文-「世界は痛みに満ちている。」。
何度なく使われている惹句ですけれど、「灯」の少女たちの物語からは感じにくいものです。
少なくとも現時点においてはですけれど。

もちろん、彼女達それぞれに苛烈なドラマが用意されていて、「痛み」は描かれているのだけれど、死を扱わないと十分とは言えないのですよね。
悲しいことに。
そういう立場に立っているチームなので。
そこで用意されたのが、悲しいことですけれど「鳳」で…。

ただでさえあまりの急展開に唖然とした本編ですけれど、「哀しみ」というと、そこまで大きなものではありませんでした。
まず間違いなく言えるのは、今回の短編集のようなエピソードを読んだ上で、「全滅した」という悲報を知った方が悲しめていたはずで。
それはそれで効果的だとは思いますけれど、今回の構成と比べると「傷は浅い」気がするのです。

それほど短編集を読んだ今の気持ちは淀んでいます。
だってさ、辛いじゃない。
それぞれメンバー個別にスポットを当てたエピソードを順に読まされ、1人1人のキャラクターにグッと愛着を持たせた上で、総決算とばかりに総登場のバカ騒ぎエピソードで仕上げる。
5章のキュール編は爆笑しましたよ。
しっかりと仲が良くなってないと悪戯じゃすまないですからねw

「クノー兄さん、こいつらイカレているでござる……」
「…… 是。おれもそう思う」

竹町. スパイ教室 短編集03 ハネムーン・レイカー (富士見ファンタジア文庫) (pp.230-231). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

「被害者」ランとその仲間(クノー)の会話ですけれど、普通こんな会話してる状況じゃないからねw
「灯」と「鳳」の関係が、出会ったばかりの頃だったら先ずあり得ない会話。
クノーと「灯」でランを巡って本気の戦いが起こっていて然るべき状況なのに、両チームの関係が「蜜月」と呼べる状況だったからこそ笑えるシーンに転嫁されていたんですよね。

両チームのほっこりとした関係をこれほど端的に表現したエピソードは無いよ。
あぁ、いいなぁ、こういったライバルチームの存在。
ずっと絡みを見ていたいなぁと心より願えるけれど、既に僕らは「鳳」の最期を知っているわけで。

そうして締めには、実際に彼らが殺されていく様子が克明に活写されていく。
気持ちの浮き沈みをジェットコースターの如く乱高下させる短編集の構成は、本編に組み込まれなかった故。
もし、本編に組み込まれていたら、ここまで急激な気持ちの変化は起きようが無かったよね。

滅茶苦茶楽しくて、大いに笑った。
けれど、だからこその深い悲しみが読後に残りました。

…というのが、今回の短編集の総括です。
ここからは、一番心に残ったエピソード。3章の「caseクノー」について書きます。

ビターエンドだからこそ心に残る

先日、とあるアニメ関連の記事を読みました。
「最終回が残念だったアニメ」というテーマの記事でした。
今リメイクされている「うる星やつら」とか「新世紀エヴァンゲリオン」などがあげられている中、同じく取りあげられていた「フランダースの犬」についてのコメントが心に残りました。

この作品を「最終回が残念」と感じた人の理由として「ネロの死」があげられており、「アメリカではネロが生き返ったエンドに変えられていた」などの逸話が紹介されていました。
その上で識者の「大衆にはハッピーエンドが好まれるが存外その場合記憶に残りづらい。ビターエンドの方が心に残る」という見解になるほどなと膝を打ちました。
そういう考え方も出来るのかと。

僕自身ハッピーエンド至上主義だし、鬱エンドは好みではありません。
けれど嫌な記憶がいつまでも残り続けるように、鬱エンドの方が人々の記憶に傷跡を残すというのはその通りなのかもしれません。

 

だからという訳では無いのですけれど…今回一番印象に残ったのが、このエピソードでした。
いや~な終わり方だし、内容でしたね。
猫好きなことも手伝って、惨すぎる展開に気分の落ち込みも凄まじかった。
ただ、アネットの物語には欠かせないエピソードなので、グッと堪えて読みましたよ。

第2部で明かされたアネットの深すぎる闇。
「灯」でやっていくには、どうしてもアネットは変わらないとなりません。
今回強調されていたように「灯」のアイデンティティは、チームワークです。
別に本質が悪人であっても良いですけれど、とはいえ、「仲間の為行動できる」愛情や犠牲心は必要です。
仲間の為に死にたいと語り、事実そうして逝ったクノーと、きっとそれが理解できないアネットの大きな「違い」。
クノーとアネットが「同一の存在」であることそ示唆することで、その違いの大きさが克明になっていました。

このエピソードの後のアネットを見るに、オリーブとその子供たちの死によって彼女が変わったわけではないと分かります。
けれど、彼女が変わる最初の切っ掛けにはなるんでしょうね。

人間と猫の違いが分からない。
猫を殺した人間への殺意を覚えた。
しかし、その殺意が猫の子供を殺してしまった。

この慟哭が、彼女には必要なはず。
第3部で変化したアネットに出会いたいものです。

終わりに

次も短編集ぽいですね。
シリアスな本編には無い笑いが溢れてる短編集は、やっぱり楽しい。
キャラの普段とは違った魅力が読めて、徳しかありませんね。

次回も楽しみに待ちます。

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