「千歳くんはラムネ瓶のなか」は非リア充視点の青春ラブコメ」しか認めないって人ほど読んで頂きたいラノベ

この記事は

「千歳くんはラムネ瓶のなか」感想になります。
ネタバレあります。

はじめに

ガガガ文庫で受け継がれる「青春ラブコメ」血統、そのニューフェイス
そう銘打たれたら、そりゃ読むしかないなってなります。

ガガガ文庫の青春ラブコメには外れが無いからです。
「俺ガイル」、「妹さえ」、「友崎くん」。
どれも好き。

イラストにも惹かれてたんですよね。
キャラクターの等身が高めで、見た目からして爽やか。
イラストレーターの選考がセンスあるなぁと謎の上から目線で見てました。

そこも含めて全体的に岩浅さんっぽいなと思ってたら、やっぱり岩浅さん。
本編中に「もげろ」って単語が出て来た時に確信しました(笑

で、読んだ感想ですけれど。
やっぱり外れないなと。
王道とは真逆の切り口で挑みながら、プロットはどこまでも王道。
「非リア充視点の青春ラブコメ」しか認めないって人ほど読んで頂きたいラノベですね。

リア充の正論は一見の価値あり

県内随一の進学校のトップグループに属するのが主人公・千歳朔。
彼の周りには誰もが羨む美少女が集まり、男友達も人気者のイケメン。
誰もが羨むような毎日が充実した輝かしい青春を送っている…というのは、ほんの表層でしかなく。
彼らにも彼らなりの苦労もあるんだよというのが骨子となっています。

僕が学生の頃は、まだスクールカーストとかリア充なんて言葉は存在してなくて、だから「リア充のくせに」という視点は持ったことが無いのです。
ただ、リア充かそうでないかといえば、間違いなく非リア充側だったので、物語の中の彼らの言い分は分からないでもないのです。

「生まれ持った才能の差」
「顔が良いから」
「地頭が良いんだろ」
たいして努力もしてないくせにと決めつけて、僻んでしまう。
時には悪意を持って距離を取る。

こうした非リア充の文法で作られているのが、非リア充視点の青春ラブコメ。
学園ドラマを主軸に置くと、大抵がこのスタイルになるんですよね。

それもそのはずで、何故ならばリア充よりも非リア充の方が圧倒的多数を占めてるからです。
そりゃそうですよね。
カーストなんていうくらいですから、ピラミッド型で構成され、上位のリア充よりも下位の非リア充の方が多くなるのは道理。
普通に考えても、クラスの過半数がリア充なんてありえないですし。
故に非リア充視点の物語で多くの読者の共感を得るというのは、商業作品として鉄板の素材なのでしょう。

そうではなくとも、「成り上がり」は時代を問わずウケが良い。
「正義」の非リア充が「悪者」のリア充をやっつけるようなシナリオを組み込めば、それはそれで売れ線なのだと思うのです。
だからこそ、リア充視点になると、それだけで一種のチャレンジ精神が見て取れちゃいます。
非リア充視点より難しい挑戦で、より緻密なテクニックが必要なのかなと。

と、素人が分析じみたことを書きましたけれど、早い話面白かったぞという事ですよ。
作り方が巧妙ですよ。
引きこもりのオタク君(山崎健太)をリア充が救うという構成は、一歩踏み外すととんでもなく傲慢な空気を作ってしまう。
しかし、主人公自身が「自分の為」と宣言したうえで、泥臭く身を挺して山崎君を立ちなおさせる。

最初の問答が何気に一番のハイライトだったのかもしれません。
典型的なオタク理論でリア充の朔らを口汚く罵る山崎君。
それに対して、朔はしっかりと相手を見て、論理的に説き伏せていきます。
非常に納得できる正論なんですよね。

先ず先制攻撃とばかりに山崎君はこう言うのです。
「お前らリア充はたまたま見た目がよく生まれたとか、運動神経が良かったとか、高校に入れば人より勉強が出来るとか……そんだけの理由で自動的にカースト上位になって、当然の権利みたいに非リアをひとまとめにして下に見てるだろ」
ここまでテンプレ的な非リア充理論を振りかざすオタク君が実在するかは議論の余地を残すところですけれど(笑
テンプレ的と感じるという事は、フィクションでは当たり前のように描かれてきた理論な訳です。
朔はこれに対して正論でぶった切ります。
先天的な能力を認めつつも、それだけで高校生にもなってトップカーストに入れるわけがないだろ…と。

オシャレにせよ、勉強にせよ、部活(運動)にせよ努力の結果だと言うのです。
そりゃそうですよね。
天才じゃ無いんですから。
学校という小さな小さな社会(学生にとってはそれが全てではあるのでしょうけれど)のトップに立つのに、100年に1人の天才である必要性はありません。
他人よりもほんの少しの努力を重ねていれば、トップが見えてくる社会です。
それですんなりとトップに立てるとは言いませんけれど、それだけの話。
非リア充は、そんな当たり前にさえ目を背け、自分磨きをしようともしない自身を棚に上げて、努力しているリア充を一括りにして馬鹿にしている。

個を見ていなかった山崎君を正論でぶった切り、突き放し、それでいて、山崎君個人と対等に付き合っていく朔。
手ひどく裏切られても、颯爽と現れ、熱く熱く「友」を傷つけた相手に怒りをぶつける。
どこか特撮のヒーローのような活躍を見せて、実は憧れの先輩の真似をしたかったという高校生らしい可愛らしい本当の動機を胸に秘めて。

決して読者が感情移入をして応援するタイプの主人公では無いのですけれど、憎めない等身大のヒーローとして応援できる朔。
彼の紡ぐ物語は、リア充視点というラノベに於ける王道では無いのですけれど、しっかりとラノベの青春ラブコメ群像劇の王道を走っている。

美少女に囲まれて腹立つという気持ちは痛い程分かります。
が、そこは拳を抑えて、リア充・朔の物語に浸って欲しい。
同一視点の話ばかりで思考が凝り固まる前に、違った視点で学園カーストに生きる高校生たちの青春を見てみるというのは、絶対に良いです。

少しオッサンの説教臭い話になりますが、1つの問題を多角的に観察する能力は絶対持ってた方がいいから。
エンタメでそれが養えるなら最高じゃないですか。
決して説教臭くなく、手の届かない夢物語でもない。
地に足の着いたリア充の物語を1人でも多くの方に読んで頂きたいです。

終わりに

2巻が出てますね。
山崎君は引き続き出てくるんでしょうか。
そこが気になりますね。

1巻満足出来ましたので、2巻も読んでいこうと思っています。
楽しみです。

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