「声優ラジオのウラオモテ」第2巻感想 仕事の闇にスポットを当てる。信頼できる。(キリッ)

この記事は

「声優ラジオのウラオモテ」第2巻の感想です。
ネタバレあります。

電撃文庫の大攻勢

6月期の電撃文庫は読むものが多くて嬉しい悲鳴が出そうです。
「声優ラジオのウラオモテ」もその1本。
第2巻の感想を今回は取り上げさせていただきます。

「お仕事モノ」につきものの仕事の闇への向き合い方

お仕事は辛い。
いくら憧れで夢の職業であれ、どんなお仕事にでも共通する事柄です。
中には多忙なほど愉悦を感じるタイプの人種もいらっしゃいますが、大抵の人にとっては辛い事。
故に、仕事の辛さを描写しない「お仕事モノ」は間違いなくリアリティに欠けます。

いくら「この仕事は素晴らしい」と賛歌しても、光の面だけにスポットを当ててたら、作品としては信じられないんですよね。
光あれば闇があるのは真理で、闇の部分にもきっちりとスポットを当ててくれなくちゃ。
闇の部分なんだから、ドギツイ現実が待ってること請け合いなのですが、そこがプロの腕の見せ所の1つなんではないでしょうか。
だからこそ、きっちりとエンタメとして楽しめる様に落とし込んであれば、信頼感も増すというものです。

さて第2巻は、第1巻の完全なる続きでした。
「当たり前だろ」と思われるかもですが、僕にとっては意外だったのです。

第1巻は、新人アイドル声優の歌種やすみ(佐藤由美子)と夕暮夕陽(渡辺千佳)の出会いから1つの事件を解決するまでが描かれていました。
夕陽に突き付けられた「枕営業」疑惑。
アイドル声優としては致命傷に成り得るスクープを撮られた夕陽は、クラスメイト男子の悪意にも晒されて追い込まれてしまい…。
由美子の行動力でなんとか収束は見たものの、「キャラを作っていた」2人は、声優としての地盤が崩れてしまいました。
それでも2人は前を向いて、ゼロからの再出発を遂げた…という感じで1巻は〆られていた為、「枕営業事件」は完全に終わったものという認識でした。

違った。
全くちっとも終わってませんでした。

そりゃそうかもしれません。
アイドル声優が「実はキャラを作ってました」「本来は全然違う容姿とキャラなんです」「仲も悪いです」なんて暴露したんです。
通ってる高校もバレました。
所属事務所への、業界への、オタクへの影響が残るのは必然と言われれば、納得しかありません。

その中でも特にスポットが当てられたのが、声優業界とオタクへの影響でした。
新キャラの柚日咲めくるが活躍してました(笑

めくるは、夕陽の事務所の先輩声優。
独自の確固たる仕事観を持っているので、やたらと正論で殴り掛かってくるアイドル声優さん。
正鵠を射ることを言ってくるんだけれど、言い方がひたすら悪いから反感を買うタイプ。
やすみにとっては「嫌な声優」として認識されちゃうんだけれど、だからこそ、作劇的には効果が抜群。

1巻でやすみ達がやったことは、決して美談なんかでは無いんだよという現実を突き付けてくるんですよね。
僕のような立場からすれば、美談以外のなんでもないんだけれど、彼女たちの世界の中の、彼女たちの同僚たちにとっては違うんだよと教えてくれる存在になっていました。
「アイドル声優がみんなキャラを作ってると見られてしまう」というのは、そういう一面もあるのかと新たな気づきとなりました。

誰も彼もが主人公2人にとって優しい世界ではないと分かるのは、殊の外大きいです。
直前に事務所のかなり寛容な対応があっただけに、その落差もあってインパクトの大きな出来事として印象に残りました。

続いて、オタクからのリアクション。
これが声優を含めた芸能人・有名人という仕事の闇の1つでしょう。
バッシング。
誹謗中傷。
言葉の暴力。
多かれ少なかれどんなお仕事でも付きまとうことではありますが、特段大きな負担として圧し掛かる代表的な職業が「芸能人」だと思います。
作中ではかなりマイルドな描写に留まってはいましたが、「裏切り」を受けたオタクたちからのバッシングが2巻のポイントでしたね。

さて、結論を書きます。
「お仕事モノ」につきものの「仕事の闇」への向き合い方は、今作ではどうだったのか。
保留…です。

中傷から逃げずに立ち向かい、ある種の克服を果たしたものの、闇の深さで言えば1巻の方が上でした。
クラスメイト男子の清水の悪辣さと比較しちゃえば、2巻のオタクたちは可愛いものでしたから。
めくるに至っては「仲間」と呼んでもいいくらいでしたしね…。

とはいえ…です。
美談として終わらせることも出来た「事件」を掘り下げて、様々な角度から「失態」であったとアプローチを試みるのは、今後への大きな期待になりました。
少なくとも「素のキャラがウケて、今まで以上に仕事が順調に行きました」という薄っぺらい展開にはならないはずです。
理不尽なことも待ち受けているでしょうし、今後も「事件」の悪影響に接することもあるでしょう。
その度にどう2人が乗り越えていくのか。
楽しみが増しました。

それにしても、佐藤ママの強さよ。
人の親としての1つの理想像と言ってもいいかもしれない。
娘を真に理解して、娘の為だけに矢面に立てるママは惚れ惚れする強さでした。

最後に

ママと言えば、渡辺ママも人の親として何も間違ってはいないんですよね。
子供のことを無碍にしすぎと思わなくも無いですが、「命の危険」に晒されているのだからむしろ当然の行動なのかもと思う。
だからこそ、やすみも動けなかった訳ですし。
彼女の人間らしい葛藤を含めて、読み応えのある物語でした。

あと、最後に一つ。
渡辺ママの「あれはもう声を掛けられた判定でしょう」には、何度も頷いてしまった(笑
野暮と言われても、実際アウトとされる方が普通だと思うのよね。
ここ含めて、事後は警察沙汰になって大変であったと描写してくれたことは嬉しかったなぁ。

(2人を休止に追い込みたいオタク達がそうじゃないオタク達に阻まれ続けるという出来事そのものが)いくらなんでもリアリティの欠けるイベントだったので、そこに現実的なフォローが入ったのは良かったです。

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