若木先生への「信頼感」を確実にしてくれた「なのは洋菓子店のいい仕事」

この記事は

「なのは洋菓子店のいい仕事」の感想記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

はじめに

僕は心底気に入った作品に出会うと、その作者の別作品にも無条件で手を出していきます。
「DRAGON BALL」で虜になり鳥山先生の全作品を。
青山剛昌先生の漫画も片っ端から手を付けたし、さとうふみや先生、加藤元浩先生も同様。
そういえば井上雄彦先生の場合は、「カメレオンジェイル」と「BUZZER BEATER」しか読んでませんね…。
「バガボンド」は10巻くらいまでしか読めてませんし。
村枝先生も「RED」と短編集「聖なる夜に散歩する」、「機動公務員かもしか!」、「ジエンド」シリーズだけだな…。
「俺たちのフィールド」は是非読みたいんですよね。
「仮面ライダーをつくった男たち」は当然読んでますけれど。全部という訳では無いですね。

一部例外こそありますが、こういう傾向があるんです。
フィーリング…とでも言うのでしょうかね。
1つの作品を面白いと思えたから、同一作者の別作品を同じように面白く感じれる保証なんて何処にも無いんですよ。
それは分かるんです。
けれど、惚れ込んだからには、ストーリー作りなり、キャラの描き方なり、絵であったり、台詞回しのセンスなり、ギャグのツボであったり。
どこかに強いシンパシーを覚え、「これだけは絶対だ」という作者に対する一種の信頼感を寄せてしまうのかなと。
例えば、前作ではギャグのツボを突きまくってきたので、作品が変わってもそこは変わることなく笑えるだろう…とか。

同じ人間が生み出す作品なのですから、描き出す作品世界が違っても、底に流れるテイストは変わらないだろうという信頼。

ちと前置きが長くなりましたが、こういう訳で「なのは洋菓子店のいい仕事」を自然とレジに持っていきました。
同時購入した「神のみぞ知るセカイ on the train + pilot films」と共に感想を。

バトル漫画は求めてなくて、ほのぼのとしたコメディ。
若木先生にはそんな漫画を求めていました。
「pilot films」」でそれを信頼し、「なのは洋菓子店のいい仕事」で確信する。
それが気持ち良かったです。
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「pilot films」

「神のみぞ知るセカイ on the train + pilot films」。
表題作である「神のみぞ知るセカイ on the train」は、2014年の冬コミで販売された同人誌を元に、12ページ程加筆されたものです。
仕事で買いに行けなかったのを感想ブログ「所詮、すべては戯言なんだよ」のヨークさんが代わりに買って来て下さったので、加筆の分量まで正確に把握できてます(笑
今回こちらについては横に置かせてもらい、本題は「pilot films」の部分。

コミックスで若木先生が主旨を説明されていますので、ざっくりと箇条書きで纏めさせて頂くと…

  1. 連載に繋がった3本の読切(連載のパイロット版)を収録
  2. 常に読切を連載の第1話のつもりで書いている
  3. それぞれの読切に対して、当時の状況を踏まえ、その作品から何を失い、何を見出していたのかを解説

作者の解説を載せて、時系列順に3本の連載作品のパイロット版読切を収録した短編集…ですね。
んで、この「作者の解説」が実に面白かったんです。

先ずは「緋石の怪盗アルバトロス」。
最初の連載作品であります「聖結晶アルバトロス」のパイロット版です。
白状しますと、僕は「聖結晶アルバトロス」を未読です。
知りません。
いや、存在は知ってましたよ。
当時大学生だったかな。
『「サンデー」で好みの絵柄の漫画が始まったな〜、ちょっと楽しみだな〜』と新連載1話掲載時に思っていたものの、結局読むことなく今に至っているという体たらく。
この感想を書くにあたり、電子書籍で購入して読んでみようとググったものの、唯一ヒットした「ソク読み」ですら配信終了。
絶版になっているのか、新刊書店でも見つからず終い。(古本は買いたくないので見てません)

なので多くは語れないのですけれど、バトル漫画だったというイメージだけは持っていました。
だから「緋石の怪盗―」が「聖結晶―」のパイロット版だと言われてもピンと来なかったんですよね。
怪盗ものはバトルとは異なります。
やりようによっては、いくらでもバトル要素を強められるんでしょうけれど、「ルパン三世」、「CAT’S EYE」や「まじっく快斗」等と同様にバトルとは一線を画す構成は可能です。
挙げた3作品の中では、「まじっく快斗」に程近い路線にSF要素を絡めた漫画として連載出来そうな感じでした。
とてもバトル方向に舵切る感じは見いだせなかったのです。

解説を読んで納得。
ちょっと面白いと思った部分だけを掻い摘んで抜粋します。
以下は、あくまで僕が面白いと思えた部分を恣意的に拾っているものです。
これだけ読むと若木先生の言いたい事を曲解される恐れもありますので、全文を読まれることをお勧め致します。

一番大きかったのは自分の好きなものが、「ボーイミーツガール」、「ラブコメディ」、「そこはかとない知性」の3つだと思いだせたこと

21歳でプロになってから初連載「聖結晶―」まで足掛け12年。
その間多くの漫画を描かれていたようですが、漫画家さんにとって最も「自分の好きなモノ」ばかり描けないのがこの苦難の期間なのかもですね。
担当編集者さんや編集部の方針次第ではあるでしょうけれど、「本人は描きたくないモノ」も描かないといけない事も多いのかなと。
若木先生もなんとなくそういう修業時代を過ごされていたのかなと、解説からは感じられました。
「久しぶりに自分のスタンスで描けた作品」と評されていましたので。

その「自分のスタンス」というのが上で抜粋させて頂いた3点。
確かに「緋石の怪盗―」はそういう作品でした。
「そこはかとない知性」という点が若干弱いかなと思えたんですが、主人公(?)を強盗のような力任せに頼らない怪盗にしてる時点で問題無いんでしょうね。
(一部力技で難局を乗り切ってる部分もありましたが、そこは主旨とは違いましたしね)
このパイロット版が、「自分のスタンス」から遠ざかってしまった理由が

連載段階で僕が好きじゃないバトルの匂いをさせてしまった。

ことのようです。
連載版第1話でバトル要素を入れ込んでしまった為に、結果として3つの描きたい事が出来なかった。
そう結んでいます。

そうなのかと思えたのが若木先生がバトルを好きじゃないと仰っていた点。
「失敗」の要因となったバトル要素を排し、好きなスタンスだけで勝負できる作品。
2本目は「恋して!?神様!!」が掲載されています。
「神のみ」の原型読切ですね。

またしても解説から抜粋させて頂きます。

至上命題として自分が好きな「ボーイミーツガール」、「ラブコメディ」、「そこはかとない知性」の繰り返しを行うことを心がけ、さらに1つ1つの要素を輝かせるために自分の得意としていた「猛烈に押し付ける」というある種異常性を感じる要素を入れた作品です

「猛烈に押し付ける」要素としては、読切版と連載版では異なってますね。
読切では、「7日以内に駆け魂を狩れなければ、駆け魂ごと町を燃やす」となってました。
(他はエルシィをダメ悪魔にしてる点。連載ではよりここも強調されてますね)
恐らく、連載版の桂木桂馬だったら、これは大した強制力にもなってなかったでしょうね。

別に桂馬が「他人を巻き込んでも良い」という極悪な考えを抱いている訳では無く、どこまでもゲーマーであり、現実に興味が無いから。
18巻でもこんなシーンがありました。
古悪魔の画策の一端を知り、街の異変を察知した桂馬。
「この場所で今……とてつもない何かが起ころうとしてる…」
そう呟きます。
頭の良い彼の事ですから、古悪魔によって街が破壊される可能性を敏感に察知した筈です。
読切と同じ状況を目の前に提示されながら、しかし桂馬はこう続けています。

凄く印象に残ったんですよね。
あの駆け魂が一斉に暴れたら大変な事になるとエルシィに言われても、
「そん時は、終わりでいいだろ。ゲーマーに戦えってのか?バカバカしい。」
と返しています。

「自分が死ぬ」という分かり易い強制力に変更されたことで、より桂馬のゲーマーという面が強調されてますし、なによりも「作者からのメッセージ」が強烈に桂馬の台詞に出ています。

「バトルはしない」

アニメの「女神篇」の感想でも書いたのですが、このブレなさが「神のみ」の面白さの由縁の1つですね。
バトル方面に舵切りを出来そうな局面にしても、絶対にそっちには行かないと主人公に断言させている。
その背景に前作の「失敗」が活かされていたという事が分かった点が実に面白かったのです。

「なのは洋菓子店のいい仕事」

最後に載っていたのが「洋菓子店ギャラクシー」。
今作だけは連載1話というつもりでは描かれなかったそうです。
故に、「なのは洋菓子店のいい仕事」とは根本的に違います。

「神のみぞ知るセカイ」は桂馬のキャラもあって、プロット感が相当強かったので足を止めてキャラと向き合う時間がすごく短かった。
もっとプロットを弱めてキャラと触れ合える、キャラの動きを追いかけて1個の話にならないかと思い始めたのが「洋菓子店ギャラクシー」を描いた時期です。

ちょっと若木先生の言われてる事が自分にとっては難しくて、上手く解釈出来ませんでした。
「プロット感」というものをどう捉えて良いのか分からなくてですね。

プロットというと

小説、劇、長詩などの筋立て、構成のこと

であって、僕としては構成という意味合いで捉えてきました。

プロット(全体の構成)があって、そこから細かなストーリー(脚本)を作る…みたいな素人考え。
だからプロットを弱めるとか強めると言われても、首を傾げざるを得ませんでした。

なので、ぼんやりとしか掴めなかったんですが、「神のみ」って桂馬が物語を引っ張っていく展開が序盤では目立っていました。
桂馬が攻略というプロットを練って、物語もそれに沿って書かれていたというイメージですね。
そこにキャラの意志が介在する隙は殆ど無く、桂馬の掌の上で転がされていたというか。

ただ、このイメージは「攻略篇」のみに止まっています。
「女神篇」以降この要素は徐々に薄まり、「過去篇」ではほぼ消えましたね。
桂馬が振り回される展開が多くなっていったんですよ。
頭が切れて、ギャルゲーの神様という設定上、桂馬が完全に翻弄されるような事こそありませんでしたし、若木先生曰く「桂馬はすべてが見える男」なようですので、「過去篇」に於いても桂馬1人がプロットを作っていたと言ってもいいのかしれません。
けれど、桂馬以外のキャラが物語をかき回して、引っ張って行った印象の方が強いんです。

この「過去篇」のような構成を主軸に置くべく、いや、若木先生的には「桂馬の手から完全に離れた構成」とした方がより正しい解釈なのかもですが…。
「神のみ」からの「切り替え」の橋渡しとして描かれたのが「洋菓子店ギャラクシー」だったのかな…と。

早い話「エンディングが見えない」んですよね。
「神のみ」では、駆け魂を追い出してヒロインを救うというエンディングが見えていて、それを桂馬が見せてくれていた。
「洋菓子店ギャラクシー」は、先の展開、特にオチなんかが見えなくて、メインキャラ2名の動きで話を転がしていた。

「なのは洋菓子店のいい仕事」は、よりそこが強調されていたかな。
長男のタイムが本当に曲者。
どんな作品だって、おぼろげではあっても少々先の展開であれば予想出来るじゃないですか。
今まで読んできた・見て来た多くの作品達から学んだ”経験”が多ければ尚更、予想を付けやすい。

こういうオチに持っていくんだろうな〜的な想像が出来ちゃう。

予想の当たり外れはどうでも良くて、そういう楽しみ方もありますよね。
「なのは洋菓子店のいい仕事」は、タイムがその予想の悉くを鼻で笑ってくる感じなんです(笑

え?なんでそんなことしちゃうの?
ってことばかりする。
読者のリアクションを作中で振り回される役割の物語の語り部である次男セージが担ってくれている。
それでいて、最終的にはしっかりと話が纏められていくから驚きです。

途中まではタイムが桂馬にダブっていました。
他人を意外な言動で翻弄するところとかそっくりなんですよ。
だから、タイムも物語の全体を神視点から見て、全体を操っているのかなと。
桂馬と同じように。

ただそれだと、「神のみ」と同じになってしまいます。

自分にとって「神のみ」が一つの完成形だったわけですが、その型をそのまま使えば同じ漫画になってしまう。
同じ要素を使いながら別の漫画を作るために「ギャラクシー」が必要でした。

「ギャラクシー」の解説文から、このように仰っています。

第1巻は8話まで収録されていましたが、その8話目。
タイムもまた、桂馬のような存在では無いことが描かれていたと思いました。

世界を掌で転がしている訳では無くて、彼もまた世界に翻弄されていると。
この先に何が起こるのか、タイム自身分かっていないんだと。
僕にも当たり前ですが、どうなっていくのか分からなくて、「エンディングが見えない」。
どういう漫画になっていくのか見えませんでした。

基本1話完結のほんわかホームドラマなのか、何か大きな物語が動き出すのか…。
1巻ラストで「菜花洋菓子店を潰そうと目論む女の子」言葉・S・サリンジャーさんが出て来たので、彼女(達)との戦いの日々になるのか…。
ただ1つ確かな事は、やはりバトル方面には行きませんよという事かな。

パティスリーであるから、料理漫画という要素も含んでいます。
料理漫画というと、大きく2つに分けられます。
料理バトルを主眼とした作品群と日常モノの中の1ジャンルとして「食べる楽しみ」に主眼を置いた作品群に。
最近は後者が流行っているのか、よく見かけますね。

「なのは洋菓子店のいい仕事」は、前者に行く事は無いと断言できます。
いざ料理対決かという流れになっても、セージが悉く妨害した上に
「まっさか〜〜〜!!グルメ漫画じゃあるまいし〜〜〜」
と対決する事を拒否。
サリンジャーさん達とのグルメ対決という方向性は無いんでしょうね、きっと。

また、後者とも違う。
ケーキに纏わる知識の披露こそありますけれど、それをメインに置かずに、「食べる楽しみ」も重視していません。
グルメ漫画ではあっても、これまでの型に嵌らない作品になっていきそうです。

そう考えていくとポイントは、タイムの吸うタバコになるのかな。
タイムが消えることは即ち菜花洋菓子店が潰れることに等しいですから。
カバー下の菜花洋菓子店の歴史に書かれていた「2代店主が白川家の娘らしき子と結婚した」というのも気になりますね。
ライバルの白川姉妹は親戚なんでしょうか?
そんな雰囲気微塵も無かったので、ここら辺の謎も今後絡んできそうでワクワクします。

いくつかの謎を孕みつつも、グルメを扱ったホームコメディを主題としつつ、タバコを巡る攻防戦が描かれるのかもですね。
なんにせよ、今作からバトル要素を排除してくれそうな点は若木先生を信頼しています。

ケーキという甘くて平和的なシンボルを中心に据えているのに、バトルという似つかわしくない要素が入って欲しくないですからね。

終わりに

長々と感想なのかよく分からないことを書いてきちゃいましたけれど、端的に纏めますと
これほどまでにケーキを食べたくなる漫画も無いなと(笑

甘くて口の中で蕩けるケーキを頬張る、そういう幸福な一時に浸りたくなる。

優しい空気感と、相変わらずの丸っこい画風が、漫画の世界観にもピッタリ来ていて、そこもお気に入り。
まるで先の見えない物語も含めて、存分に楽しめそうな漫画でした。

なのは洋菓子店のいい仕事 1 (少年サンデーコミックス)

なのは洋菓子店のいい仕事 1 (少年サンデーコミックス)

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