「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 アンソロジー2 オンパレード」感想

この記事は

「俺ガイル」アンソロ第2巻の感想です。
ネタバレあります。

はじめに

2か月連続4巻構成というレーベルを挙げてのお祭り騒ぎ。
「俺ガイル」アンソロの感想は、順番前後しまして、第2巻から始めます。

豪華執筆陣。
内容は、期待の上を行く粒揃いでした。
一部敬称略で書きます。

【白鳥士郎】やはり千葉のハイラインはまちがっている。

ラノベ界のロリ四天王に数えられる白鳥先生のことですから、当然に京華をメインに据えたロリロリ短編を期待していたのに。
まさかの裏切り。
いや、しかし、氏の描く戸塚もこれはこれで。

メンツこそ意表を突くものでしたが、内容はまさに「俺ガイル」の血統を正しく受け継いでいるもの。
拭いきれない千葉愛を炸裂させた一品になっておりました。
ジェフユナイテッド千葉(あれ?「ジェフユナイテッド市原」じゃなかったっけと思ったら、2005年から変わったのね。知らんかった)の本拠地・フクダ電子アリーナを舞台にして、八幡、戸塚、葉山という原作では見られなかった組み合わせの会話劇。
こりゃあ千葉に詳しくなきゃついていけないぜ的なネタのオンパレード。
勝浦担々麺くらいしか僕は分かりませんでした。(食べたこと無いけど)
で、調べたら喜作のソーセージ盛って実際にあるんですね(笑

流石、取材には抜かりないですね。
グルメ、サッカーと千葉ネタを取り上げつつも、「りゅうおうのおしごと!」で魅せる白鳥先生の熱いノリもしっかりと再現。
で、オチに関しては、「りゅうおうのおしごと!」を読んでるかどうかで評価が分かれそうです。
「りゅうおうのおしごと!」では、熱い展開で盛り上げに盛り上げた末に大きなカタルシスがあるのですが、今回はそれを逆手に取ったオチ。
呆気に取られるというか、呆気ない幕切れで話を落とす手法は、ハイライン戦術(ハイプレスハイライン)の弱点を突いてるとはいえ、人によっては受け入れられないかもしれませんね。
個人的には、呆気に取られつつも、「俺ガイル」らしさも漂わせた上手いオチだなと感じました。

【伊達康】義輝の野望・全国版

ごめんなさい。
失礼ながら伊達先生を侮ってました。
「果たして」を多用した文章がクセなのだと「友人キャラは大変ですか?」で信じ込んでいた為、何を読んでも「友人キャラ」をイメージしちゃう文章になってるんじゃなかろうかと。
果たして、そんなことは無かった!!
それどころか、今作の中で渡先生を除いてトップを決めるのであれば、僕は迷いなく今作を推します。
それほどに「俺ガイル」してたし、しっかりと笑えました。

作りがね、非常に巧み。
今まで語られなかった。いや、語る程中身が無かったという方が正しいか。
材木座と八幡の出会いについてを、材木座視点で描くという画期的なアイディア。
よくもまぁ、何もないことが明白なエピソードをここまで壮大に広げられたものだと感心するばかり。
プロ作家の実力は本当に凄いですね。

正直本編の一部だと言われても遜色ないほどクオリティの高い短編になっていたと思います。
だって、材木座が間違いなく材木座そのものだったし、八幡の反応も実に八幡。
それでいて、あのオチでしょ。
全てにおいて「俺ガイルらしさ」で固められた傑作でしたね。
最高に面白かったです。

【田中ロミオ】思いのほか比企谷八幡の受験指導は的を射ている。

田中先生の作品は、まだ「人類は衰退しました」第1巻の1冊しか読んだことがありません。
続刊については、順序読み進めていく予定ですが、その前に本作を読んでしまったため、正直作風については何とも分からないのですが。
これまたやはり「俺ガイル」のテイストを汲み取った短編に仕上がっていたと感じました。

2・6・2の法則は有名ですよね。
かつて「2・6・2の法則」で社員を評価して給料を決めるというクソみたいなシステムを取り入れていた会社がありましたが、それに比べれば八幡のやり方はなんとも美しいじゃあないですか。
個人的にはこれも自己犠牲的なやり方に思わなくも無いのですが、そこがまた、実に八幡が思いつき・実践しそうな手法だったなと。

あと、特筆すべきはオリジナルキャラの濃さ。
名前すら出てこなかったのに、メガネの委員長っぽい女子の存在感が凄かった(笑
この少女をメインに据えた物語で掌編位書けちゃうんじゃないかなって位キャラが立っていたし、実際に読んでみたくなりました。

【天津向】平塚静と比企谷八幡の、ある休日の過ごし方

この本で、唯一残念に思えてしまった作品。
あとがきでご自身で触れられているように今作の平塚女史は「天津向の願望が作り出した平塚静」であったなと。
ラーメン好きで、気軽に八幡を拾って、車を駆ってでも食べに行く。
この姿勢そのものは間違いなく平塚先生そのものであるのだけれども、なんていうのかな。
全体的にこう男らしさが無いよね。
滲み出る兄貴感とでもいうのかな。
漢字の漢と書いて「おとこ」と読ませる漢気が感じられなかったのは、同じ平塚先生フリークとして非常に残念。

平塚先生の魅力って、溢れ出る漢気。
その中にちらっと垣間見せる乙女だと思うのよ。

「蒙古タンメン中本」の梯子なんていう、やってること自体は男らしさがあるのだけれど、言葉の端々から感じられるのは女子そのもの。
セリフ回しに平塚女史らしさが皆無だったのは残念でした。

あと、中本推しも悪いという訳では無いんですが、そこも作者の好みは控えて千葉らしさを出して欲しかったよね。
「虎の穴」、「増田家」、「かいざん」と千葉を拠点とした店を好む平塚先生。
郷に入ればの精神で京都では「天下一品」にも行っている。
そういう意味では、中本の船橋店を紹介するのは理解できる範疇です。
けれど、県外にまで梯子しちゃうのはやり過ぎかな。
まぁ、東京まで行っちゃうのは、平塚先生らしいともいえるんですけれど、ラーメン好きというより「中本好き」になってるので。
執筆時点ではまだ無かった(丸戸先生の話から締切日は2019年上半期であろうと想定)市川店か千葉店があれば、まだこのあたりのもやもやも解消出来てたと思うと…。

【丸戸史明】ぼくのかんがえたけんぜんなはやはち

メタ視点、嫌いじゃない。
13巻の発売、半年ほど遅れてましたからねwww
この辺のボヤキ、不謹慎かもですが笑っちゃいました。
作家同士がこうやって笑いのネタに出来る関係性なのが透けて見えるのが、実に微笑ましい。
あと、

それもこれも、微妙に、いやあからさまに言葉を濁し、複雑でわかりにくい心情をさらに深い霧の中に追いやり、考察好きな読者をいい方向にも悪い方向にも刺激してほくそ笑んだり逆ギレしたりする原作者のせいだ。本当、この作品ってめんどくせえ。

↑ここも好きw

丸戸先生が好きというのもあるようですが、兎も角12巻時点で関係性が確定的に明らかだった葉山と八幡のお話になったということで。
これはこれであり得そうな気もしないでもない。
少なくとも、付かず離れずの微妙な距離感を保ったまま、こうやって2人は今後も歳を重ねていくんだろうという事は想像に難くない訳で。
そういった意味で、本作もまた「俺ガイル」らしさを含んでいるのだと思うのです。

ただ、1つ違和感があるとすれば茶渡じゃなかった戸部の「比企谷」呼び。
聡明な海老名さんならともかく、戸部が間違いに気づくかな?(笑
流石に戸部を馬鹿にし過ぎだろうか。

【渡航】やはり妹さえいればいい。

原作本編最終ページの後の奉仕部が描かれています。
原作本編最終ページの後の奉仕部が描かれています。

大事なことなので二度言いました。
大事これ。

変わらないようで、確実に変わった奉仕部の関係性。
最も分かりやすいのは、雪乃が八幡への好意を隠さなくなっているところ。
結衣もそれを受け入れた上で、八幡ラブをしっかりと出している。
それなのにぎすぎすしたところとか、三角関係的なドロドロ感は一切ない。
これまで通り、いや、今まで以上の良好な関係性がハッキリと見て取れるのは、やっぱり最高のハッピーエンドを迎えた確かな証左であって。

そして、いろはす好きとして看過できない彼女の立ち位置。
小町による八幡の取扱説明書に感銘を受ける雪乃と結衣の横で、ドン引きしつつも一言。

「やべぇなお米ちゃん、それもう小姑じゃん……。そういうの、めちゃめちゃめんどくさいから嫌なんですけど……」

分かります、ここ。
ここの破壊力のヤバさ。
雪乃と結衣が感心して、次はそうしなきゃという姿勢を見せるのは分かるんですよ。
だって八幡のこと好きだから。
でもさ、八幡のことを好きではないと公言して憚らないいろはが覚える必要性は皆無なんですよ。
嫌がる理由がありません。覚えなくていいのだから。
事実小町も「いろは先輩は別に覚えなくてもいいんじゃないですか?」と返してます。
言外に「お兄ちゃんのこと好きじゃないんでしょ?」という含みを持たせてるあたり、完全に皮肉でしょう。
いろはも対抗して実力行使に出ようとしてますし。

小町すら気づくほど、いろはも八幡への想いを隠しきれてないのが本当に尊い。

つまるところ、ブラコン小町も含めて、奉仕部は完全に八幡ハーレムになってしまったと。
なんてことだ早く何とかしないと。

にしても、「俺ガイル」でこんなにも分かりやすい甘々ラブコメを読める日がこようとは。
生きててよかった(笑

終わりに

川なんとかさんの出番があって、そこも個人的には〇。
新奉仕部の活動についても、小町が中心になって小町らしい解決を実行してる点が見られて、非常に良かったです。

という訳で、渡先生の書き下ろしの破壊力が断然高いことは言うまでもありませんが、それぞれの作家性を出しつつも、全般的に「俺ガイル」であったアンソロ。
非常に優れた作品集を読みて、大きな満足感を得られました。

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