「青春ブタ野郎はナイチンゲールの夢を見ない」感想【青ブタシリーズ第11巻】

この記事は

「青春ブタ野郎はナイチンゲールの夢を見ない」の感想です。
ネタバレあります。

はじめに

謎が謎を呼ぶ大学生編の2巻目。
待望の最新刊の発売です。
今回は赤城郁実にスポットが当たりました。
感想になります。

「さくら荘のペットな彼女」に通じる作家性みたいなモノ

数か月前から鴨志田先生の代表作である「さくら荘のペットな彼女」の合本版(全巻が1冊になった電子書籍)をちょっとずつ読み進めています。
ラノベの新刊を優先していることもあって、まだやっと6巻を読み終えたところ。
6巻と言えば、第1部完とでも言える大きな節目の巻です。

学校側の大人の事情に巻き込まれてさくら荘の取り壊しが決定してしまい、空太たちが奔走するお話。
美咲と仁の卒業と旅立ちも描かれた大事な、大事なところ。
アニメ放送から約8年たっているので、どうやって取り壊しの阻止に成功したのかすっかりと忘れてしまっていたこともあって、ただただ感動しました。
あの美咲の卒業生代表のスピーチは卑怯だわ。
「さくら荘頑張れぇぇぇぇぇぇぇぇ」って心の中で号泣しつつ絶叫してましたわ。

そんな訳で、改めて「さくら荘」に触れているのですが、こうして鴨志田先生の著作に触れてみると、先生の「スタイル」が見えてきますね。
いくつかあるのですが、中でも1つ強く感じたのが「バッドエンド風味の結末」を描いてくることです。
最終的には、綺麗なハッピーエンドに落としてくれるのですが、そこまでの道のりを決して楽ばかりにしない。

まだ6巻までのお話という前提で言えば、「さくら荘」の主人公である空太なんて、その代表格。
ゲーム作りに挑む彼がコンテストに挑むと、1回目は2次審査のプレゼンで落選。
2回目は、プレゼンをギリギリ通過するも、審査会で「同じジャンルでより売上が見込める企画が出たから」というシビアな理由で没になります。
ゲーム作りについて何も知らなかった高校生が、たった2回の企画作りで開発寸前まで持っていったという事実自体が作り話めいていますが、決してとんとん拍子で「最後の壁」は超えさせないんですよ。
1度ならず2度、3度と挫折を与えてくるんです。

七海は2年間遊びもオシャレも投げうって努力に努力を重ねたのに、声優の道を呆気なく絶たれてしまいます。
フィクションとはいえ、成功体験ばかりではないことは、当たり前のことと言われるとそれまでだけれど、それにしても夢見る若者たちの青春活劇なのに辛い現実をしっかりと描いている。

長くなりました。
「青ブタ」に戻りますと、こっちも同じなんだなと改めて感じたのですよ。
かえでがそうだよね。

解離性障害を克服したら、花楓が帰ってきて、彼女の中にしっかりと「かえで」もいる…という考えうる限り最高の場所に着地してくれると疑っていなかった当時。
しかし実際には、花楓の中に「かえで」の痕跡は残っておらず、彼女は失われてしまいました。

郁実はどっちなんだろう。
僕としては、バッドエンドに近い決着に思えました。

郁実はバッドエンドか否か

高校生編の最終巻となった第8巻「ランドセルガール」。
そこで「もう1つの世界」に渡った咲太が出会った「高校のクラスメイト」の郁実。
まさか、ここから話が繋がってくるとは…。
ちょっとというか、かなり驚きました。

あの時の咲太と同様に、麻衣にそっくりなランドセルガールが手引きしたのでしょうかね。
ちらっと登場してましたから、そう考えるのがスマートかな。
まぁ、どうやって2つの世界の郁実が入れ替わったのかは不明ですが、どちらの世界の郁実が引き起こした事象だったのでしょう?

前回の咲太の時は、「こっちの世界」の咲太が原因とみて間違いないですかね。
それに巻き込まれる形で、「向こうの世界」の咲太(以降「咲太β」と呼称)は、こっちに来させられた。
大事なのは、咲太と咲太βは、それぞれの世界をどう感じたのか。

咲太にとって向こうの世界は、理想的過ぎる世界であったと言ってます。
現在の人間関係を変わらず構築出来ており、過去の嫌な事件も全て起きる前に解決されている。
居心地が悪いわけがありません。
それでも尚、咲太は元の世界へ戻ることを望んだのです。

対して咲太βにとってはどう映ったのか。
想像しかできませんが「しっかりしてくれよ」という書き置きを残しているだけに、どこか歯がゆさを覚えたのかもしれません。
自分が解決できたことを解決できなかったままの世界なのですから、「中学生時代より前に牧之原さんのことを思い出せなかったのかよ」と咲太に文句の1つでもあったのでしょう。きっとね。

何が言いたいのかというと、咲太にとっての「中学生時代」は、辛い記憶でこそあれ、忘れたいほど嫌な事ではないってことですね。
この気持ちに辿り着くまでには、翔子から始まって、麻衣や理央、佑真ら多くの仲間・恩人・恋人らに助けられたからというのがあります。

じゃあ、郁実はと言えば…。
郁実と郁実β、どちらが思春期症候群を起こしたのか分からないほど、どちらも彼女たちにとって辛い世界を生きていた訳で。
それが証拠に、2人共にそれぞれ別の世界が良かったと零しています。
これは、きついよね。
彼女たちは望んで、自分たちの世界に帰った訳じゃないですからね。
思春期症候群はまだまだ続いていて、それってつまり心のストレスを完全に解消したわけではないという何よりの証であって。
間違いなくハッピーエンドとは言えない締め方であったなと。

振り返ってみると、敢えて咲太との差を際立たせる構成になっていたのだなと感じました。
端的に言えば冒頭の佑真、理央との江の島でのシーン。
本編の展開には全く関わってこない、言うなれば、丸々カットしても問題の無いシーンでしたが、敢えて挿入してあったのは、咲太にはちゃんと仲間がいるということを印象付ける為だったのでしょう。
麻衣という「自慢したくなる彼女」もいるし、色々あったけれど過去と踏ん切りをつけた咲太の今が充実していることがしっかりと描かれていました。

郁実はと言えば、どちらも過去に囚われたままになっている。
郁実は、中学時代の咲太に手を差し伸べられなかったことを悔やんでいた。
その上、自分自身が思春期症候群を発症したことで、中学時代の咲太が正しかったと知ってしまった。
「自分が助けたわけでは無いけれど、中学時代の問題が無かった世界」は居心地よくて当然と言えそうです。

郁実βは、元居た世界の「正義の味方・咲太β」の居ない世界に満足していた。
何者にもなれなかった自分が、成りたかった自分でいられる世界だから、居心地が良かった。

どちらも過去に囚われたまま、郁実βは自分を律する気持ちに抗えずに帰った。
一方が帰れば、もう片方も戻るので、郁実は戻ってきた。
ただ戻ったわけでは無くて、「過去との決別を図った」のだけれど、あれ結局失敗してましたからね。

うん。
やっぱり今回の郁実編はバッドエンド気味だったのかな。
でもさ、まだこの先に彼女の物語は続くかもなんですよ。

結局大事なのは、彼女の潔癖なまでの正義感にどう折り合いをつけるかでしょ?
咲太主人公の物語を彼に寄り添って触れている僕らからしたら、中学時代のクラスメイトは酷く悪く映りがちだけれども、咲太が言うように「中学生で処理できる問題」では無いですからね、実際。
というか、クラスメイトの反応って実に自然だと思うのよ。
勿論陰口を叩いたり、非難したりを肯定はしませんが、「おかしなことを言っている」と考えるのは普通でしょう。
そういった気持ちは持って当然だし、そのような考えが支配した空間で、空気に逆らった行動を取ることってやっぱり難しいよ。

郁実自身が過去の何も出来なかった自分を「仕方のなかったこと」と思えるか否かが、鍵になるんじゃないかな。
そのカギの役割を元カレが担う気がします。

終わりに

霧島透子は何者なのか?
早くも大学生編、最大の謎に切り込むのでしょうか。
そこ解決されると物語も終わっちゃいそうなので、もうちょっと焦らして欲しいというのが本音だったりするw

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