「声優ラジオのウラオモテ」第9巻感想 何故千佳は、劇の助っ人を引き受けたのか?

この記事は

「声優ラジオのウラオモテ」第9巻の感想です。
ネタバレあります。

はじめに

非常に楽しい。
読んでいてこんなにも楽しい気分になる作品は久々だ。
最近ラノベよりもミステリ小説ばかり読んでたから余計にそう感じるのかもだけれど、やっぱりキャラの魅力の虜になってるからだろうと自己分析。

いつの間にか、僕は今作のキャラに強い愛着を持っていたようです。
だから本当に面白おかしく読める。

キャラクターを好きになると、物語は2倍も3倍も魅力的に読めるものですね。

さて今回は文化祭編。
声優業と大学受験の両立に苦しむ由美子が、りんごの助言で受験勉強(学業)に専念することになったという展開。

無我夢中になって声優のお仕事に邁進してきた由美子が、一旦立ち止まって「普通の青春」に浸ることで、「自分が本当にやりたい事」に向き合うという葛藤を掘り下げていく中、文化祭で演劇をやることとなり、そこでお決まりの王道展開に巻き込まれるのですけれど…。

「本番当日、仲間の1人がハプニングで出られなくなる」というお約束に焦点を当てて感想を書きます。

「本番当日、仲間の1人がハプニングで出られなくなる」というお約束が少し苦手

主人公が文化祭のステージに立つことになると、必ずと言っていいほど訪れるイベント。
「仲間の誰かがステージに立てなくなってしまう」アクシデント。

今回は、由美子を演劇に誘った当人である委員長が、本番当日風邪に倒れてしまうという展開。

アクシデントに遭遇するのがメインキャラかサブキャラかで感想が異なるのでけれど、ことサブキャラがとなると、僕はいささか残念な気持ちになります。
メインキャラを立たせる為に、サブキャラを犠牲とする展開がどうも苦手。

出られなくなったキャラクターの想いをしっかりと昇華してるなら救われるのですけれど、そうじゃないとあまりにも可哀そうじゃないですか。
スポーツ漫画とかで大事な試合に限って怪我で全力を出し切れない展開もそうですけれど、安易に怪我や病気でドラマを作るのではなく、悲劇に見舞われたキャラクター自身の心情をしっかりとフォローして欲しいのです。

では委員長はどうだったか。
僕としては、大満足だったのです。

「同好会3年間の集大成として、演劇をやってみたい。」
委員長最大の動機は、「練習の演劇で満たされた」という点に納得できるかどうかで感想も変わってきそうですけれど、個人的には納得出来たのです。
今回が初めての演劇で、演劇については素人。
故に、声優とはいえ演技のプロである由美子と共に練習をするだけで満足したというのは、ロジックとして十分説得力のあるものでした。

これが委員長自身演技を齧ったことがあったら納得できなかったんですけれどね。
なまじ演劇経験があれば、練習だけで満足なんてしないと思うのです。
プロと一緒の舞台に立てないという悔しさが何よりも勝るのかなと。
いや、まぁ、想像でしかないですし、この考えが絶対的に正しいなんて思い上がっちゃいませんけれど。
やはり相応の事情が描かれないと納得までいかないと思うのです。

という訳で、委員長個人の想いにはしっかりとフォローが入っていた。
あとは、「代わりをどうするか」。

何故千佳は、劇の助っ人を引き受けたのか?

多くの場合、ステージにはメインキャラを含めて3人以上が組んで上がることが多いです。
そうなると、1人出れなくなったからと言って、「棄権」一択という訳にはいきません。
「ステージに上がれる仲間の為にも、棄権はせずに出て欲しい」というロジックが成り立っちゃう。
故に「代役」として第三者、多くはメインキャラその2の出番となります。

しかしながら今回舞台に上がるのは由美子と委員長だけでした。
勿論裏方を含めれば4人なので、「残る2人の為にも」となって然るべきかもですが、そもそも残りの2人は「演劇をやりたい」という気持ちが委員長に比べれば希薄。
「委員長がやりたいから協力する」という立ち位置。
委員長が満足している以上は、彼女達の気持ち的に「棄権」は決して「彼女達の気持ちを蔑ろにした展開」では無い。

理屈っぽく書いたけれど、棄権しても良かったんですよね。
けど、委員長にとっては有り得ない選択肢だった。

「自分が言い出したからこそ、同好会の仲間含め、協力してくれた全員の為に劇をやって欲しい」
元々責任感が強く、病を押してまで無理して演じようとしていた委員長ならではの気持ち。
「そんなこと知るか、寝てろ」と力業で黙らせても良かったけれど、若菜が千佳を連れてきたからね。
もう1人の主人公を引っ張り出してきた時点で棄権は無くなった。
普通ならば。

普通ならばね。
でも、渡辺千佳って子は、普通じゃない。
ここで素直に手伝いましょうという子じゃない。
だから、それでもまだ棄権の可能性は残った。
残ったはずなのだけれど、結果としては千佳は引き受けたのです。

何故千佳は、劇の助っ人を引き受けたのか?
この疑問について、僕の解釈を。

 

9巻のお話は、由美子と千佳の積み重ねた気持ちに1つスポットが当たりました。
この場面、出会った頃の由美子ならば、若菜と同じ行動を取っていたのではないか。
「クラスメイトがこうまでして頼んでるんだから、あんた手伝ってよ。やったことあるんでしょ」みたいに。
若菜よりストレートに。若菜よりも強引に。
千佳の気持ちを考えずに、彼女のプライドを踏みにじった。

気がする。
あくまでも、気がする。
そんなことはしないかもしれないけど。

でも今の由美子は、千佳を理解している。
同じ声優の、演技のプロとして矜持が許さなかった。
理解しているからこそ、「プロの矜持を大切」にして「プロアーティスト・夕暮夕陽」に練習もしてない演劇の助っ人を頼むことを拒んだ。

千佳は嬉しかったんだと思う。
由美子が「歌種やすみ」を諦めてないって分かって。

だから協力したのかなと。

「答え」とは違うかもだけれど、そんな風に解釈して、勝手に納得しちゃいました。

終わりに

それにしても読んでいて楽しかった。
キャラを好きになると、こうも楽しく読めるのかと。
自分自身気づきにもなった。

いつの間にか「大好きなシリーズ」になってたんだなと実感した9巻だった。

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