三谷幸喜×アガサ・クリスティ「死との約束」の結末を江戸川コナンはどう見るか?

この記事は

フジテレビドラマ「死との約束」をコナンの探偵としての矜持について。
ネタバレ注意。

ネタバレ注意

この記事は2021年3月6日にフジテレビ系列で放送されたスペシャルドラマ「死との約束」の結末に関するネタバレがあります。
まだドラマを視聴していない方、及び、今後見る予定のある方は、この先の記述を読まないようにお願いいたします。

 

さて、野村萬斎さん演じる名探偵・勝呂武尊を主人公としたドラマシリーズの第3弾「死との約束」が放送されました。
アガサ・クリスティの同名長編小説を下敷きに、三谷幸喜さんが書き下ろした本格ミステリ。
正直ミステリとしてみると、派手さの無い、こじんまりと纏まった印象を強く受けました。
とある人物を引き離す際の唐突さ(伏線の拙さ)や分かりやすすぎる真犯人等マイナス面も目立っていましたが、しかし、容疑者絞り込みのロジックの美しさと何よりも「ただの事件の容疑者」に留まらないキャラクターの描き方・絡ませ方の上手さにまんまと引き込まれました。
この辺は三谷作品の真骨頂ですよね。
癖の強いキャラクターを魅力的に語り、彼らの会話劇だけで場を繋ぐことが出来るから、気が付けばあっという間にエンディングを迎えていました。

そんなドラマの中で、最も印象に残ったところはと聞かれれば、僕は迷いなく「勝呂の真犯人への対処」を挙げます。

勝呂は真犯人をどうしたかったのか。

今回のドラマ化にあたって、三谷さんは原作にはない要素を追加されました。
その1つが「勝呂と真犯人の淡いロマンス」でした。
この改変の理由を三谷さんは「こうしなければ視聴者がすぐに誰が犯人か分かってしまう」と述懐されていたそうです。
なんだか余計に犯人が誰なのか分かりやすくなってしまった感もありますが、それはそれとして、この改変はラストにも大きく影響していたと思いました。

どう影響したのかを書く前に、先ずは、おさらいをしておきましょう。

事件の真相を見抜いた勝呂は、関係者一同を集めて推理ショーを開くことにしました。
推理ショー前、勝呂は真犯人に「貴方は関係者ではありませんので参加出来ませんが、お部屋のベランダからなら聞こえるでしょうから、そこで聞いていてください」と告げます。
更には翌朝東京へと帰るという真犯人に別れの品を求めると、扇子を譲り受けます。
そうして始まった推理ショー。
地元警察署署長を含め、誰一人真相を知らない関係者達が集められ、勝呂は1人1人の容疑を晴らしていきます。
いよいよ最後の容疑者もシロと分かり、集められた関係者全員が犯人足り得ないとなった時点で、勝呂は真上の自室で推理ショーを拝聴している真犯人を告発します。
推理で追い詰められていく真犯人。
先ほど勝呂が譲り受けた扇子も「指紋を採取するため」だと分かり、それも署長の手に渡ります。
全てを聞き終え、おもむろに椅子から立ち上がった真犯人は、そのまま部屋を出、その足で夜の山道へと行き、自ら命を投げ出してしまいます。
翌朝、真犯人の名誉を守るべく「殺人も自殺も全て事故死」と署長に取り計らってもらった勝呂は、人知れず涙を流すのでした。

一部僕の主観が混じっていますが、あらすじとしてはこんな感じ。
(最後勝呂は泣いてなかったかも…)
何が言いたいのかと言うと、勝呂は真犯人の自殺をほう助してるように取れるのです。
それは過言だとしても、少なくとも「自殺を止める意思を見せなかった」ことは確かです。

あの時、真犯人が取れる手段は3つありました。
自首、逃亡、自殺の3つです。
このうち、逃亡は、勝呂によって事前に潰されました。
真犯人と怪盗が同一人物である証拠(扇子)を警察に渡したからです。
もしも強引に逃亡を図っても、警察が指名手配を掛ける十分な材料があるため、逃げ切ることは難しい。
自身を以前捕まえた勝呂だっていますし、心理的にも選択し辛いでしょう。

残りは自首か自殺か。
そこで思い出されるのが、真犯人は怪盗であった頃の苗字を嫌っていた点。
怪盗であった過去を忌み嫌う真犯人にとって、犯罪者(殺人者)として生きていくことは、耐え難かったのではないかという推測が容易に立ちます。
死ぬほど苦痛であったかまでは流石に読み取れませんでしたので、後は彼女次第…。

勝呂としても、自首するなら支える決意だったろうし、自殺を選んだら尊重するつもりだったのかなと。
結果として、彼女は自殺を選び、勝呂は彼女を犯罪者として世に出ないよう手を回した。

2人の関係がただの「探偵と容疑者」ならば、この結末は道義的にも心情的にも成り立たないのですが、オリジナル改変の為に妙な心情的な同情が生まれていました。
犠牲者の本堂夫人がとんでもないモンスターであったことも踏まえて、真犯人の気持ちを優先させてあげたかったとしても分からなくもないというか。

色々と考えさせられるラストでした。

そこでコナン君ですよ。
もしコナンが同じような状況にあったら、彼は探偵として、1人の人間としてどうするのかなと。

コナンは自首をさせる

分かり切ったことですが、自殺は絶対にさせませんよね。
タイミングよく今テレビアニメでは1000話記念として「ピアノソナタ『月光』殺人事件」をリメイクしています。
この事件は、コナン(新一)が唯一真犯人を自殺させてしまった事件。
以降、コナンは何が何でも真犯人だけは自殺させないようになります。

有名なセリフですね。

では、どうするのか。
答えとしては、「大阪”3つのK”事件」になるのかなと思います。

コナンが大ファンのサッカー選手レイ・カーティス。
彼が容疑者となった殺人事件が発生。
居合わせた平次が捜査する中、コナンはしかし「レイを含めたアリバイのある3人以外の犯行」であることを提言。
どこかいつもと様子の違うコナンに気づいた平次がツッコむも、コナンは普段通りだと惚けます。
しかし、次の瞬間にはアリバイトリックのカラクリに気づく2人。
平次は犯人をレイであると言いますが、信じたくないコナンは必死にレイが犯人で無い証拠を探し回ります。

探せば探すほど、レイが犯人である証拠ばかりが見つかってしまい、結果コナンは1人でレイと対峙しました。

恋愛感情では無いけれど、敬愛の念を抱く相手が犯罪者であるという点で、勝呂のケースと近いのではないでしょうか。
この事件でコナンが選んだのは、推理で追い詰めて自首させるという方法でした。
やろうと思えば、平次に任せることも出来たわけです。
もし、平次に任せていたら、「敵前逃亡」。
コナンとしては、犯人を逃がしたことに近い手段と言えたでしょう。
レイが犯罪者であることを分かった上で、何もしなかったのですから。
でもそうじゃない。
コナンは、平次に使いを頼んでまで1対1の状況を作り出して、自供に追い込みました。

その後メッチャ落ち込んでいましたが、コナンとしてはどんな相手であれ犯罪者であれば自らその過ちを突きつけ、自首させるのだと分かります。

きっとコナンが勝呂のことを見ていたら、全力で止めていたんだろうね。
「自殺を尊重するなんて間違っている」とでも言いそうです。

終わりに

だから何?
とか言われると、特に返す言葉も無いんですけれどね。
ふと、思っちゃったのだから許してください。

個人的には、自殺を認めてしまった勝呂のやり方はちょっとなぁって感じです。
それが例えエゴなのだとしても、コナンのやり方の方が好きかな。

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