「ひげを剃る。そして、女子高生を拾う」第5巻感想

この記事は

「ひげを剃る。そして、女子高生を拾う」第5巻の感想です。
ネタバレあります。

なんとか間に合った。

3巻を読み終わった頃、twitterのTLで「最終第5巻が6月に発売」という旨のしめさば先生のツイートを見かけました。
驚きました。
ラノベって人気作でもダラダラと続けることは珍しくて、スパッと完結する印象を持っていますけれど、流石に5巻で終わるとは予想だにしていなくて。
かなり人気があって、編集部からも推されているとも思っていたので、尚更に「もう終わるんだ…」と呆けてしまいました。

そうなると、現在放送中のアニメでも原作と同じ(もしくはそれに近い)終わりをするのかもしれない。
アニメも見てる身としては、こりゃうかうかしてられないなと。
流石に結末は原作で先に知りたいじゃないですか!!

4巻、短編集と読んで、本日ようやく最終巻まで読了出来ました。
改めて、今作の感想を書かせていただきます。

ハイファンタジー吉田

かなり際どい題材を、真摯に真正面から取り組んで、そして、最後まで描き切った作品であったと思います。

恋仲でも、血縁関係でも無い「真っ赤な他人」の女子高生を家に連れ込んで、泊まらせている。
児童相談所や警察に通報をせず、沙優を自宅に長く住まわせ続けた吉田は、常識的にも倫理的にもアウトであり、まぁ捕まるでしょうね。
起訴までされるかは不明ですけれど、立派な犯罪行為には違いなくて。

犯罪行為を「美化してる」・「正当化している」と判断されてもおかしくはないし、そういう感想を持つ人だっているかもしれない。
けれども、僕としては決してそんな事は無いと思う訳ですよ。

犯罪行為だと吉田自身が認めるところだから…ではありません。
これは沙優母の言う通り。
自覚してるから許されるという問題ではありません。
これで沙優母が許していたら、正当化と捉えられてても仕方ない。

僕が犯罪を正当化しているわけではないと考えたのは、ひとえに吉田のファンタジーさです。
彼ほど「そんな奴現実にいねぇよ」って言葉が相応しい男はいません。
独身、彼女も無し、独り暮らし。
そんな中で、かなりの年下とはいえ美少女が「エッチさせてあげるよ」と誘惑を繰り返ししてくるのに、その全てを拒否できる。
酔った勢いでも、しない。
素面になっても、しない。
仲が深まっても、しない。
最後までしなくても、途中まで…なんてことも一切無い。
他人の、後腐れも一切ない少女ですよ。
そりゃ警察に見つかれば問答無用で逮捕ですけれど、「犯罪だから、しない」のでは無く「興味ないからしない」とか異常です。
倫理観から手を出さないのならまだ分かるけれど、子供だから手を出さないというのは、なかなかに信じ難い。
一颯が疑ったように「普通に考えてあり得ない」訳ですよ。

なんだかこう書くと、男は皆性犯罪者予備軍であると主張しているみたいに見えちゃいますが、そうじゃなくて。
赤の他人の子供に、あそこまで誠意ある行動をし続けることがファンタジー。
現実的ではないと言いたいのです。

吉田の存在以外は、地に足の着いた「実にリアリティのある世界観」。
それ故に、吉田のファンタジーさが際立ち、「犯罪」そのものもリアリティを感じないのです。
吉田だからこそ、この作品がラノベのエンタメ作品として成り立っていたのかなと。

ただただ日常だけだった沙優の物語

リアリティある世界観というと、沙優の物語。
彼女の過去に関しては、正直に本音を申し上げれば、「それだけ?」でした。
17歳の少女の心が折れるには十二分な事件と環境であったということは分かります。
それでも「小説らしい非現実的な凄惨極める過去」を想像していただけに、そんなものという心無い感想を持ってしまいました。

唯一の親友の自殺。
愛してくれない実母からの心無い言葉。

1つ1つを取り上げれば、実に現実的な出来事。
(流石に全てが同時にというのは、あり得ないほどの確率ですが)
それだけに、ノンフィクションを読んでいる感覚を覚える程でした。

彼女が逃げることを辞め、立ち直って前を向くには、どうすればよいのか。

どこまでも沙優を支える吉田の存在だけでは無くて、しっかりと厳しい現実を突きつける三島や後藤の存在も大きかった。
支えられ、肯定され、時に否定もされて。
誰も彼も沙優を「1人の人間」として対等に接してくれたから立ち直れたんだなと素直に想える物語。
特別な事は何も無かったけれど、だからこそ「当たり前の日常」に溢れた「沙優再生の物語」が心に沁みました。

「あんたなんか生むんじゃなかった」と心の底から吐き捨ててくる実母に育てられたというバックボーンがあったから、「些細で当たり前な人間関係」に揉まれたことが立ち直る理由になったというのは、途轍もない説得力でした。

終わりに

再会した2人の「これから」。
恋仲になるのか、親子のような関係として続くのか。

どちらにせよ明るい未来が待っているかのような終わり方で、心地よい読後感でした。

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