「ぼくたちのリメイク」第11巻 感想 

この記事は

「ぼくたちのリメイク」第11巻の感想です。
ネタバレあります。

はじめに

遂にクライマックスに入った「ぼくたちのリメイク」。
次巻で完結と言うことで、グッと物語が加速したな~という感想を持ちました。
読みながらちょいちょい感動して涙目になってましたw

恭也が時間遡行させられた理由こそまだ明かされませんでしたが、タイトル回収がされたり、「β編」の意義が改めて判明したりと、盛り沢山でした。
その中でも僕が一番心震えたのが、「歴史改変者の苦悩」に遂に1つの回が出された点でした。

「歴史改変者の苦悩」

恭也を苦しませていた「自身が介入したことで、仲間の歴史を歪めているのではないか」という悩み。
現代の記憶を持ったまま過去に戻った恭也は、その知識と経験を武器にしつつ、だからこそ、仲間の人生を狂わせているのではないかと言う葛藤を抱えている様が描かれてきました。

とはいえ、一度答えは出てるんですよね。
タイトルの回収も同じタイミングで、既に語られていました。
第4巻という序盤の終わり。

2007年から2018年に飛び、再び2007年へと戻った恭也。
2018年の英子の言葉で気づかされます。

僕は他人の人生に、責任を持とうと考えていた。だから、未来でこの上なく絶望した。
それは彼らの本来の未来を知っていたからであり、僕が絡むことでそれを台無しにしたから だ。
でも、人生の価値を決めるのは他人ではない。自分だ。彼らはあの未来で、自分で選択して人生を作った。
そこに僕の意思なり行動なりが介在したとしても、だ。
なのに、それを外側から見て不幸だダメだと言うのは、明らかに傲慢な行動だった。
河瀬川の言葉で、やっとそれに気づくことができた。
人生の肯定は、僕だけじゃなく、あのときにいたみんなに向けられたものだったんだ。

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改めて、自分の創作への想いを強くし、そして、「これからが、ぼくたちのリメイクの始まりなんだ」と宣言。

これも1つの「正答」だよね。
恭也は神でも何でもないのだから、自分のせいで友人たちの歴史を歪めてしまったというのは確かに傲慢と言えます。
大学生と言えども、自分のことに責任を持つのは本人自身。
元居た世界の歴史が「彼らにとって最も幸せな世界で、そうでなければならない」なんて考えること自体がおかしい。

だから、恭也が考えることではない。
その点では正しい回答だと思います。

けれども、「恭也の存在によって本来の歴史が変わった側」の視点に立つと、それは「間違ったルート」だよね。
この「間違ったルート」が、2018年の世界として示唆されてたのでしょう。

あのルートでは、恭也とシノアキが結婚して、1人娘を授かった「幸せな世界」でした。
その点に於いて、シノアキが不幸になったとは言えません。
プロのイラストレーターでは無くなったけれど、彼女の幸せの世界の1つとして否定が出来ません。

しかしながら、恭也が元居た2016年を「正史」とすると、シノアキはイラストレーターであるのが正しいこととなり、分かりやすく2018年のシノアキは、「恭也によって歴史を歪められた人物」に相当します。
あのルートは、ナナコも貫之も夢を諦めていましたから、全員にとって「歴史を歪められた世界」でした。

物語としてのベストは、「過去に恭也と知り合っていて、かつ、正史とほぼ同様の歴史を刻む」こと。
そう考えると、前回最後からの流れに感嘆しちゃったのです。

前回の驚愕のラストの意味が分かった

10巻のサブタイトル「エンドロール」。
発表当初僕は、最終巻かと勘違いしてました。
違ったわけれですけれど、ある種最終巻よりも衝撃的なラストだったんですよね。

唐突に、あまりにも唐突に仲間と袂を分かつような態度。
イラスト共に添えられた「これが、ぼくたちのトゥルーエンドだったんだ。」の言葉。
そして、エピローグの章題が「?????」。
当然僕の頭も「?????」。

え、なんだこれ、なに???
バッドエンドを見せられた気分にもなりましたよ。

この唐突な展開が意味するところが全く分からなかったのですけれど、11巻読んで納得。
10巻で描かれなかった「仲間から、創作から離れた理由」が明かされたからというのもある。
ただそれ以上に「6年という期間」の必要性に納得したのです。

大学卒業と同時に、1人仲間と離れ、エンタメの世界と別れを告げた恭也。
これならば、シノアキ達が「正史とほぼ同等の歴史」をなぞるには十分に思えます。

唯一の変化は、恭也と出会ったという点。
この変化を貫之のペンネームを「川越京一」から「川越恭一」にすることで表現されていたのは驚きました。
このアイディア、最初からあったのかな。
物凄いシンプルな着想だけれど、シンプルだからこそ気持ちいいね。

 

恭也個人だけが納得した「歴史改ざんの苦悩」問題。
今回「恭也によって歴史を歪められた人物」達側の問題が解消され、ようやく物語が最良のルートに到達したんだと確信出来ました。

ぼくたちのリメイク

歴史の改ざんを最小限にしつつ、黄金世代に恭也を絡ませる。
その為に必要な6年の期間でしたが、物語に自然に組み込むには、「離れる理由」と「戻る理由」が不可欠でした。

この「戻る理由」付けの際の先生の言葉が良かった。

「自分の信じた道を突き進めず、この世界はふさわしくないと勝手に判断して、仲間たちを捨てて自分だけまっとうな社会人になって、だけどちょっとしたきっかけでいい気になって、また何か作ろうとしている。中途半端で、愚かだな」

木緒 なち. ぼくたちのリメイク 11 無駄なことなんかひとつだって【電子特典付き】 (MF文庫J) (p.175). 株式会社KADOKAWA. Kindle 版.

バッサリwww
恭也のことを気持ちよい位、切り捨ててくれてるんですよね。

涙を呑んで諦めざるを得ない学生たちを沢山見てきたからこそ、可能性を持ちつつ身勝手に離れた恭也を愚かに思っても仕方ないかなと。
夢半ばで業界を離れた学生にとっては、恭也の生き方はふざけんなって気持ちにだってなりますしね。

この後、恭也の生きざまを肯定してくれるけれど、こうやってしっかりと一度否定してくれてると、肯定の意見も受け入れやすくなるよね。

「散々迷惑かけておいて、今更迷惑になるかもなんて言うな。」という正論をかましつつ、「生きてるだけで、迷惑なんていくらでもかかるんだ」というのも至言だぁねぇ。

主人公を導く恩師がしっかりとしていると、やっぱり作品も締まるよなぁと改めて感じたシーンでした。

こうして戻った恭也が、かつての仲間達と、かつて成し得なかったゲームのリメイクに挑む。
「ぼくたちのリメイク」。
熱いわ。タイトルの意味合いとしては、4巻の時には無かった感動と納得感がありました。

前は「ぼくたちの」じゃなくて恭也個人の「ぼくのリメイク」感が強かったでしたからね。
今回は紛れもなく「ぼくたちのリメイク」って感じました。

終わりに

物語的に決着はしてないけれど、ある意味最終巻みたいな内容でした。
次が丸々エピローグだとしても理解できちゃうw

かなり充実感の高い巻で、大満足でした。

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