「シュレディンガーの猫探し」感想 アンチミステリ小説?否、純然たるミステリ小説だ!!

この記事は

「シュレディンガーの猫探し」の感想です。
ネタバレあります。

たまたま

そう。たまたまです。
たまたまtwitterのTLを眺めていて。
たまたまとあるアプリゲームのサービス終了のツイートがRTで回ってきて。
たまたま若木民喜先生のツイートを読みにいって。
いや、まぁ、2つ目と3つ目は完全に連動してるので、そこはたまたまじゃないんですけれど。

兎も角、「おっ、『結婚するって、本当ですか』のコミックスもうすぐ発売するんだ」と有益な情報をゲットしつつ、本作に興味を持った次第。

ミステリ?
アンチミステリ?
どこか不思議な。どこか西尾維新先生の世界観を彷彿とさせるような。
不思議で不可思議でミステリアスな物語でした。

今作の感想を綴ります。

総評的な

西尾先生の小説作品って、そういえば読んだことがありません。
アニメや漫画、ドラマでは多くの作品に触れて来たけれど、未だに小説は無い。
なので、原作を務めた漫画やメディアミックス化作品から受けた印象になるのだけれど。
どこか西尾維新フォロワーなニオイをプンプンとさせている。

その良し悪しは置いといて、こと、作品の雰囲気からすれば、非常にマッチしていると感じました。

今作のテーマは、「謎を謎のままにして、事件を未解決のまま迷宮入りさせる」というもの。
ミステリファンが聞いたら、なんじゃそらとビックリすること請け合い。
喧嘩売っとんのかといきり立つ血の気の多い方もいるんじゃなかろうか。
何故そんなことを魔女と自称する少女は行っているのか。
語られているようで、実のところ、何も語ってない。
「謎は素晴らしく、美しく、芸術のようで、永遠に残す価値があるから」と宣うが、本当にそれが全てなのだろうか。
彼女の存在意義がその先に透けて見えている分だけ、本当のところをはぐらかされている気分になります。

描かれる「事件」も同じ。
「三十六重密室」、「瞬間移動」に「同時存在」、そして「読者への挑戦状」。
ミステリファンの琴線を揺さぶりまくる魅力的なワードが並ぶのだけれど、結局どれ一つとして真相は藪の中。
勿論、魔女によって「思考実験」という体で「真相」は語られはします。
然して、本当のところは、誰にも分からず、当然魔女は暴かないし、暴かせない。

雲を掴むような捉えどころのない雰囲気が作中全体に溢れていて、それが西尾作品に通じていると思うのです。
言葉遊びの先に論点をぼかして、ずらして、有耶無耶にするようなやり口が似てる…というのかな。

とはいえ、これはあくまでも「前編」の個人的な所感。
あとがきによれば本書(の元となった応募原稿)は今回は前編で、後編が存在するとのこと。
しかも「後編の部分が最も言いたいところ」であるらしく、後編によってはガラッと評価を変えざるを得なくなるかもしれません。
至る所にばらまかれた伏線の回収は当然あるでしょう。
魔女によって封印された謎の数々の真の真相が解かれるのかもしれないですし、魔女の存在意義と併せて景色がガラッと変わる可能性を秘めています。

一体どういうラストが待ち受けているのか。
読んだばかりで、早くも後編が待ち遠しいです。

今作は純然たるミステリだ!!

ミステリ好きの僕としては、ミステリを否定するかのような本作に異を唱えてもおかしくない。
とは、読む前に思ってもいたのですが、読み終わればそんな気は霧散しましたね。
確かに「暴かれない真実」というのは、どこか落ち着かないし、霧が掛かったような気分もあります。
それでも、それ以上に面白いと思えてしまったのだから、仕方ありません。

一応真相のようなものがあるし、それによればどれもこれも「なんだそんなこと」と言うものなのだけれど、でもだからこそ、見せ方が上手く非常に魅力的な謎に仕上がっていることに気づかされます。
前代未聞のトリックや手の込んだ偽装工作の可能性に考えを巡らせるが、実のところ1つもそんなのは無かったりする。
「え?そんなこと?」みたいなちょっとだけ意表を突く小技だけで、壮大な謎を構築して披露してくれるのだから、演出力の高さが光るってものです。

更にいえば、迷宮入りまでのロジックが美しいじゃないですか。
探偵を行動不能にする手際と論理に無駄が無く、一本筋が通っている。
ミステリ好きとしては、この点を評価しないで、なにがミステリ好きと言えますか。
なんて偉そうなことを言ってみたり。

しかもですよ。
なんだかんだと大きな謎に含みを持たせているわけです。
先程も書いたように、伏線があちこちにある。
代表的なものであれば焔螺の魔女衣装に気づいた弥生とか。
焔螺が戸惑っている理由を令和(主人公の名前です。)が解説してましたが、「違う。そこじゃない」と心の中で突っ込んでましたよ。

消えた弥生の手紙などなど、残った謎もあることですし、こりゃ間違いなく姉ちゃん生きてんな。
封印したと思い込んでいた謎が実は、全く封印出来てなかったという展開だってあるかもしれない。

後編で一転本格ミステリに覆る可能性を残していることは、やっぱり楽しみだったりします。

キャラクター

さて、キャラクターに焦点を当ててみると、これまた愉快な面々が揃っている。
焔螺の正体については、割かし序盤で感づいてしまったものの、彼女はどういった想いで「生きて」いるのかが分からない。
令和に彼女を紹介した芥川くりすの動機と目的も不明。
これまた言葉通りなのか判然としない。
謎多き女性キャラ2人は、それだけで魅力的。
a secret makes a woman woman.

探偵たちも最高に可笑しなメンツが揃っている。
からかいがいのある明智君は、喋り方とかスゲェ好み。
憎めないし、なによりからかわれている様が面白すぎます。
金田一は、本当に良い味出してます。
手厳しいを通り越して辛辣なことを言われまくってるのに、怒ることなくツッコミ返す器量は大人の余裕を感じさせます。
ゆでたまごさんは、なんでそうも金田一に辛辣なの!?
超人漫画を描いちゃうようなあだ名を付けられてるからなの!?
でも、その辛辣さ、嫌いじゃない。

主人公の令和は妹キチで憎めないし、なにより妹の弥生が滅茶滅茶可愛いから、仕方ないねうん。
納得しちゃう。

ラノベで大事なキャラクターの面もおろそかになっておらず、1人1人ちゃんとキャラが立っているので、楽しく読めました。

結論

面白い。

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