「SLAM DUNK」 "マイナー"スポーツ漫画に付き纏う難題と解決法に関する考察

この記事は

「SLAM DUNK」中心の考察記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

はじめに

「SLAM DUNK」と、そうですね。
例えば同じ「週刊少年ジャンプ」で連載中の「黒子のバスケ」を引き合いに出しまして。
この2作品。何が違うでしょうか。

って、同じところを探す方が色々と難しそうですね。
バスケを扱っているという共通点しかありませんし。

まあ、何が違うかというと「作中に素人が出て来るかどうか」にあると思っています。

素人というのは、ここでは「バスケットボールに精通していない人物」ですね。
かつ、メインキャラ及びサブキャラである事…というのが条件ですけれども。

「SLAM DUNK」は先ず主人公である花道自身がバスケ素人でした。
当然彼とつるんでいる桜木軍団も皆素人。
どんな場面でも必ずといって良い程、素人が描かれていました。

対して「黒子のバスケ」は皆玄人…なんていうと大袈裟ですけれど、まあ、人並みにバスケの知識を有しているキャラしか出て来ません。
(誠凛1年トリオは、皆初心者でしたっけ?だとすれば、厳密に言えば、素人は居ることになりますね。)

そこで仮定のお話。
もしも、「黒子のバスケ」という作品が、「スラダン」が世に生まれる以前にWJ編集部に持ち込まれたていたら。
高い確率で、編集部サイドから「連載NG」が出ていたんではないでしょうか。

これは何も「黒子」を貶めている訳でも、そうしたい訳でもありません。
内容の優劣とかそういう問題では無くて、”作品の構造の違い”と”バスケ漫画の知名度”から来る事から、そう予測したのです。

バスケ漫画はマイナーだったという重要な事実

そもそも、バスケ漫画の原典って何かなと思って調べてみました。
と言っても、ソースがwikipediaしか無いのが悲しい…。
Category:バスケットボール漫画なるページがありましたので、一つ一つリンク先を調べました。

取り敢えず「SLAM DUNK」(1990〜1996)以前の漫画は4作品。
「ダッシュ勝平」(1979〜1982)。
「月の夜 星の朝」(1983〜1985)。
「ボーイフレンド」(1985〜1988)。
「DEAR BOYS」(1989〜連載中)。【追記】

他にもあるかもですが、wikipediaの上記ページではこれだけでした。
で、「バスケット漫画」と呼べるのは、「DEAR BOYS」以外無さそうなんですよね。
「ダッシュ勝平」は、バスケをメインとしつつも中盤以降路線を変更したらしく、ジャンルも「学園ギャグスポーツ」とかになってます。
未読作品故に断言できませんけれど、純粋な意味でのバスケ漫画とは言えないかなと。
他2作品は、少女漫画らしく恋愛メインぽく、これらも少し違う。

となると、”バスケ漫画”としての先駆者は「DEAR BOYS」であり、本格的なものは「SLAM DUNK」で2作目だったのかもしれません。
繰り返しますが、wikipediaに載っていない作品を無視すればの話ですが。(少なくとも「DRAGON JAM」等は入ってませんね。そういえば。)
いずれにせよ、非常に少なく、まだまだ漫画界に於いてマイナーな題材であった事は否めません。

そういえば「SLAM DUNK」のコミックス最終巻のあとがきに以下のような文章が書かれておりました。

インタビューやお手紙などでしばしば尋ねられたのが
「なぜバスケットボールを題材にしたのか」
という質問でした。
確かに連載開始当時はバスケット漫画は数えるほどしかなかったし、日本ではまだメジャーとはいいがたいスポーツでした。
連載前のネームを作ってるときも編集者から
「バスケットボールはこの世界では一つのタブーとされている。」と何度か聞かされました。コケるのを覚悟しろという意味です。(たぶん)

「スラダン」連載当時、日本や漫画界は、このような状況でした。
これを踏まえまして。

ルール説明の難しさと描き方

マイナーなスポーツ漫画にとって、積極的に取り入れられる要素と云えば、競技のルール説明ですね。
だと思うのです。
ルールが分からなくても、問題無い事も多々ありますけれど、やっぱり分かった上で読んだ方がずっと楽しめますしね。
「SLAM DUNK」も当時は「マイナースポーツ漫画」。
当然、ルール説明は取り入れられていました。

そんなルール説明も、実はとっても難しいと思うのです。
「SF作品に於ける世界観設定の説明」と同じ様な感覚ですね。

冒頭でグダグダと世界観を説明されると、それだけでげんなりして読む気を失くしてしまう。
特殊な設定の多い作品の典型的な駄目パターン。
同じように、冒頭で唐突にルール説明を入れられても、萎えちゃいますよね。

また、ルール説明にばかり力を入れてしまうと、それは最早エンタメ漫画というより参考書になってしまいます。
ルール説明の入れ方と分量には、気を付けないといけない。
結構難しい作業に思えます。

そこで「スラダン」では、最も分かりやすく、かつ、自然に取り入れられる「常套手段」を用いていました。
それが、素人の存在ですね。
花道や水戸ら桜木軍団の役割と云えば、彼らを通して読者にバスケットのルールを教える事だというのは、異論は無いかと思います。
彼らはバスケの素人なので、”知っている人間”が彼らにバスケのルールを教えるのは、とっても自然な事です。
花道らへのルール説明が、そのまま読者への説明になっているという図式。

試合観戦中に晴子が洋平らにルールを説明しているシーン。
Dr.Tが出てきては、ルール説明をして去っていくシーン。

「スラダン」お馴染みのシーンです。

あとは、まあ、理由を付けて、ルール説明を最小限に留めれば良いだけですね。
例えば。
一度に多くの事を教えると、花道は覚えられないから…とか。

「マイナースポーツ漫画」には、積極的に取り入れられるルール説明。
やり方を間違えると、大失敗してしまう点ですが、「スラダン」は素人を使って上手く処理されていたと思います。
このように素人を組み込み、かつ、主人公に設定すれば、「成長物語」としての副次的要素も獲得出来て、とってもお得ですね。

さて。冒頭の「黒子」との比較に戻ります。
素人のいない「黒子」には、ルール説明を差し挟む要素がありません。
アイソレーションなどちょっと高度なプレイの説明は都度ありますけれど、少なくとも「ダブルドリブル」とか「プッシング」とか。
超基本的なルールやバスケ用語の解説などのシーンは、無かったと記憶しています。
(あったらゴメンナサイ。)
素人を出す事だけが上手にルール説明を取り入れる要素ではありませんけれど、でも、「黒子」ではそもそもルール説明自体が殆ど無かったと思います。
それは、ルール説明を入れる必要性があまり無いからですね。

つまりは、読者も「当然ルールを知っている」という前提の上で描かれている作品であって、これって「スラダン」等過去のバスケ漫画達の功績なんですよね。

バスケットボール漫画が「マイナー」だった頃は、必須とも言えたルール説明。
時が経ち、後追いの作品が多く現れて、やがてバスケ漫画は「メジャー」になった。
読者の多くが、バスケに関する基本知識を得られたという認識が広まった。
だから、可能となった構成なんだと思うのです。

おわりに

スポーツ漫画を読んでいて「なんだかルール説明の描写が多いな」と感じましたら、それはその漫画で扱っているスポーツが「漫画界に於いてマイナー」だからなのかもしれません。
勿論「メジャースポーツ漫画」でも、ルール説明を積極的に取り入れている作品もあるでしょうから、その見極めは単純にはいかないかもですが…。

<追記>
頂きましたコメントを基に、一部記事を訂正致しました。

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