「キングダム」の宣伝戦略と「表紙買い」から見える日本人の性格の関連性についての一考

出張読切シリーズへの違和感

「週刊少年ジャンプ」の22・23合併号が土曜日に発売されました。
祝日とか関係のない仕事に就いていると、ついつい土曜発売の事を忘れがちになりますね。
今回もうっかりと忘れていて、発売日に買いそびれるとこでした。
別に発売日に買わなければいけない訳では無いんですけれどね。

世の中GWな訳ですよ。
GWと言えば、ジャンプでは恒例の入れ替え時期でもあります。
今回は3作品の新連載が発表され、恐らく3作品が終了するのでしょう。

で、どうやら今年はこの入れ替えと併せて、他誌から人気作を出張させた読切シリーズが開始されるようです。
24号に「週刊ヤングジャンプ」から「キングダム」。
25号に「Vジャンプ」から「ビクトリー・ウチダ Vジャンプ20歳の挑戦!!」と「最強ジャンプ」から「魔人のガルド!」。
26号に「月刊ジャンプSQ.」から「終わりのセラフ」。
3号に亘って4誌から連載作の読切が掲載されるようです。
そういえば、今週号も「SQ.」に掲載や連載が決まっている「てとくち」、「Moon Walker LTD.」、「マリオ」の読切が掲載されていました。
関連他誌との関係をより強めているみたいですね。

この企画なんですが、唯一の違和感が。
「キングダム」の存在です。

「ジャンプ」と「ヤンジャン」の読者層の違い

何故違和感を覚えたのか。
当然雑誌の対象年齢の違いですね。

「週刊少年ジャンプ」(以下「WJ」)は、wikipediaによれば

現在、同誌の読者構成は中学生を中心として小学生高学年から高校生が主であり、講談社の『週刊少年マガジン』や小学館の『週刊少年サンデー』、秋田書店の『週刊少年チャンピオン』よりも低年齢寄りである

としております。
この記述のソース元となっている「社団法人日本雑誌協会 JMPA読者構成データ」は2002年に公開を終了しているようで、現在は閲覧できませんけれど、これ多分本当かなと。
「WJ」は小学生低学年向けにシフトしつつあるという意味合いの発言をどこかで見ましたので。
…あまりにも説得力皆無の裏打ち要素ゼロの「根拠」ですけれどもwww

個人的には4大少年誌の年齢層は低い方から
サンデー<ジャンプ<マガジン<=チャンピオン
だと思っていたので、その記述を読んだ時に意外に感じて、記憶に残っていたのですが、ソース元が示せない時点でダメですね。

まあ、先に進まないので、取り敢えずwikipediaの記載を真として進めます。
そうそう。
この記事を書く際に調べていた道中面白い記事を見つけましたので、ご紹介しておきます。

「少年ジャンプの対象年齢について」 倩さん

2011年の記事で、アンケートの読者プレゼントからのアプローチは斬新かつ非常に興味深かったです。
この記事でも、小学生から中学生がメインではないかと推察されておりますし、まあ、多分これは事実であると思う訳ですね。

この「WJ」の年齢層を念頭に置いて、以下考察を続けます。

先ずは、「WJ」と今企画に関連した3誌の関係についてです。
「Vジャンプ」と「最強ジャンプ」、「月刊ジャンプSQ.」。
これらは、「WJ」から派生した雑誌です。

今ではゲーム雑誌になっている「Vジャンプ」も当初は「WJ」の増刊号という位置づけで創刊され、歴とした漫画雑誌でした。
鳥山先生が「貯金戦士キャッシュマン」等を連載してましたね。
雑誌の判型も、横長の変則的なものだった気がします。(記憶違いかも)
「最強」の方は、言わずもがなで、これも「WJ」の増刊号でした。
だからかな。基本的な対象年齢層も同じなのでしょう。
弱冠「WJ」よりかは低年齢層向けだとは思いますが。

「SQ.」はどうか。
創刊経緯としては、「前身」である「月刊少年ジャンプ」(以下「MJ」)に話を戻す必要があります。
「MJ」は、「WJ」の「姉妹月刊誌」という位置づけであった為、やはり関係性は非常に深いです。
この「MJ」を部数低迷により休刊させ、改めて創刊させたのが「SQ.」である為、やはり関係性は深いままと推察出来ます。
これは、「WJ」誌上で「SQ.」の予告を載せ続けている事からも窺えますよね。
表紙でまで発売日をアピールしてますし。

また、創刊時には編集長を始め、一部の編集が「WJ」から移籍しているという事。
「MJ」から連載が引き継がれた作品が、「SQ.」創刊までの間に「WJ」で掲載を続けた事等からも同様に関係性の深さが推し量れます。

僕の個人的な感覚では対象年齢層で言えば「SQ.」の方が「WJ」よりも上かとは思うのですが、まあ、誤差の範囲なのでしょうね。
「WJ」の対象年齢層の上限の方を主要層としているのかもしれません。

このように3誌は、「WJ」と関係性も深く、対象年齢層も似通っているように思えます。
「WJ」を中心として、やや下の年齢層に訴求した雑誌が「Vジャンプ」と「最強ジャンプ」であり、上の年齢層が「SQ.」なのかなと。
では、「週刊ヤングジャンプ」(以下「YJ」)ですよ。

「YJ」は特に「WJ」との関連性は見られません。
勿論同一の会社が発行している、同じ「ジャンプ」を冠した雑誌です。
その関係は皆無という訳では無いでしょうけれど、表だったものは見受けられないのです。

決定的に違うのは、やはり対象年齢層ですね。
「WJ」の対象層とは殆ど被らない高校生以上大学生程度が主要層に思えます。
勿論その上の成人層をも狙っているでしょうから、内容も描写もそれに伴って「過激」となっています。
当然「キングダム」も今の「WJ」漫画のどれよりもやや過激な描写が散見されます。
「そのまま掲載できるの?」という疑問がある訳です。

何故関係性も対象年齢層も違う雑誌の作品から出張してくるのか。
「キングダム」の出張にははてなマークが頭を過りました。

「キングダム」の宣伝が凄かった

この疑問に対する答えに近付くには、最近の「キングダム」の宣伝の凄さがヒントになるのかなと思ったのです。
NHKでのアニメ化が切欠なのかもしれませんね。
昨年2012年6月から第1シリーズ全38話が放送され、BSでの放送にも関わらず、結構な話題になっていた気がします。
地上波でもこの春から深夜帯に放送され始め、また、第2シリーズを控えるなど、「キングダム」旋風はまだまだ加速しそうです。

これを機に、作品をより多くの人に知って貰おうと集英社は考えたのかもしれません。
ネットを使って、前代未聞の事をしていました。

コミックス10巻分無料公開です。

これ、電車内のモニターでも宣伝を流すなどして、大々的に告知していた印象があります。
多くのニュースサイトさんでも取り上げられておりました。
これらが功を奏したのか、僅か14日間で509083冊読まれたようです。(ソース
ネット上の数字で「冊」というのはなんか妙な感じですが、恐らく1人が1冊閲覧すると、「1冊」とカウントされるんでしょうね。
なので、全員が1巻から10巻まで閲覧したと仮定すると50900人もの人が「キングダム」を読んだことになります。
(こんな単純な計算で、実際の閲覧人数は割り出せませんけれど。)

これは凄い数字ですし、でもだからこそ、こんなことして大丈夫だったのかなとも少し思います。
コミックス10巻までを無料公開なんてしたら、実際に売れなくなっちゃうんでは無いの?って。

でも、大丈夫なのでしょう。
寧ろ「売れる」と判断されているからこその、大英断だったと推測しちゃいます。

中身を知らないと、日本人はなかなか手を出さない

極論です。
日本人は、保守的だとよく言われています。
繰り返しますが、極論です。

そうじゃない人も沢山、沢山いる。
けれど、全体を俯瞰すれば、保守的に見える人の方が多いのでしょうね。
で、保守的な人って、「表紙買い」を先ず避けるんじゃないかなと。

「表紙買い」っていうのは、読んで字の如く。
表紙のイラストだったり、タイトルだったり、表紙や帯に書かれた言葉(あらすじなど)だったり。
表紙から受けるあれこれだけで、中身を知らない状態で購入する行為ですね。

これ、調べてみるとCDなどの「ジャケ買い」と一緒くたにされていますが、僕はちょっと違うと思ってます。
勿論「ジャケ買い」の一つの意味合いとして、上のような事もあると思われます。
知らないアーティストのCDをジャケットから受けた印象だけで購入したりする事は、特に珍しい行為とも思えません。

それとは別に、「ジャケットを一種のアートと捉え、インテリアとして購入する」という意味合いの方が強いのでは?とか思ってます。
ちょっと話が逸れますが、これについては一つ記事のリンクを張ります。

「「ジャケ買い」という言葉を知っている6割」 CNET JAPAN

この記事に以下のような記述が見られます。

ジャケ買いをしたことがない人へその理由を複数回答形式で聞いたところ、「知っているアーティスト、曲しかいらないから」が55.6%、「はずれるのが嫌だから」45.6%が票を集めた。

「知っているアーティスト、曲しかいらないから」としたのは、30代は50.5%、40代は56.5%だが、20代は64.5%と、知っているアーティストや曲にしか興味がないという人が多い傾向が見られた。

この部分は、表紙買いにも当て嵌まるのかなと思うんですね。

個人的な経験談ですが…。
未読の作品を表紙買いすると、当たった時は人に自慢したくなるほど嬉しくなります。
2ch等ではそういう意図のスレも立つようですし、だから「表紙買い」を推奨しているブロガーさんもいらっしゃるようです。

ただその一方、外れるとひどく落ち込みます。
「何故、中身も知らない本を買っちゃったんだろう」・「(500円程度とはいえ)お金が勿体なかったかな‥」とかとか。
お金に余裕が出て来るに従いこういう意識は薄れていってますけれど、自由に使えるお金が少なかった学生時代は、こういう経験は多かったかな。

このような思考は、どうやら僕だけでは無いみたいです。
やはり日本人の多くは保守的であり、自分の知らない作品に積極的に触れるという事が少ないのかなと。
特に倹約家も多いらしい日本人。有料だとこの傾向は一層強まる気が致します。

つまりは、中身を知らないと、日本人はなかなか手を出さないという事なんじゃないかなと思う訳です。

「キングダム」の「WJ」掲載の意図

こういう「日本人の傾向」的な事を考えていくと、無料で公開する事の意義が見出せます。
買ってもらうには、先ず中身を知って貰わないといけないという事ですよね。

多分「当たり前」と多くの方が思われる事なのかもですが、これは日本人だからとも見れるのかもしれません。
分かりませんが。

アニメ化。
ドラマ化。
映画化。

本が原作となる作品がメディアミックス展開をすると、多くの場合、その原作本の売上が(飛躍的に)伸びます。
売れるのは、宣伝量が増え、人目に付きやすくなったというのが1点。
更には、内容を知って興味を持った人が、原作を欲しくなったというのもあるのでしょう。

僕なんかはそのタイプで、アニメ等で面白いと思うと、例え内容が同じであると分かっていても、原作に手を出します。
「キングダム」の宣伝はまさにこれに則っているように思えますし、だとすると、「WJ」への出張にも合点がいくのです。

「週刊少年ジャンプ」は約282万7千部。
これに対して「週刊ヤングジャンプ」は約62万4千部。
この数字は、社団法人日本雑誌協会が発表している最新(2012年10月から12月)の公称部数です。

発行部数≠読者数だとは思うのですけれど、単純に考えれば読者層のほぼ被らない2誌では、「キングダム」を知らない読者は280万人程と推測できそうです。
もしも完全に被っていたとしても220万人。

最低220万人への新規のアピールが出来るから、「キングダム」の出張は意味があるように思えますし、そういう判断があったのかもしれません。

まあ、220万とか280万いう数字はツッコミどころの多い推論だと自認してますけれども。
ただ、これにわりかし近い人数の「キングダム未読者」が「WJ」読者には居る可能性はありますし、そういう人たちへの訴求という意図があるのではないでしょうかね。

まとめ

一昔前位なら「キングダム」レベルの「過激さ」を持った作品でも、「WJ」に掲載出来ていた気がするんですけれどね。
今は、ちょっと難しい様に思います。

だから、多少読切版は「マイルド」になるかもしれません。
けれどそれだと宣伝としての意味が薄くなると僕は思います。

「ありのままのキングダム」を「WJ」に載せて初めて、今回の企画の意図が正しく伝わるんじゃないかな〜と。
どうなるのか。
次号23号が楽しみではあります。

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